矢口渡 食べ処・飲み処「アパッチ食堂」

Life of the izakaya detective DAITEN
居酒屋探偵DAITENの生活 第564回 2014年7月16日(水)   【地域別】 【池上線】 【時間順】 【がっかり】


 矢口渡 食べ処・飲み処「アパッチ食堂」

   ~ 隠れた食堂は僕ら酒飲みの砦であった ~

 


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 東急多摩川線は多摩川、沼部、鵜の木、下丸子、武蔵新田、矢口渡、蒲田と7つしか駅がない。
 その沿線駅の中でも下丸子、武蔵新田、矢口渡の3駅の辺りは、車窓からよく環状八号線が見える。
 環状八号線と東急多摩川線が平行に走っている状態からクロスする辺り、その立体交差手前に、ずっと気になっていたお店があった。
 東急多摩川線に背を向けて建っているので電車からは見えない。蒲田方面へ向かう場合、環状八号線はお店の先数十メートルから東急多摩川線下へもぐってしまうので、運転者は注意が前方に向かってしまう。反対車線を通った場合もお店の前には歩道橋があり、車道からは影になってよく見えないのである。
 運転免許証がない。車がない。どこへでも電車とバスと徒歩だけで移動しているからこそ出会えたのかもしれない。
 
 外に「うどんそば」や「呑喰処」という幟が立っている。外の左手に「おでん」と書かれた小さな赤提灯。「うどん」と手書きで追加記入されたハイボールの黄色い提灯が右手にある。店内が見えてしまう透明なガラスサッシの店内に暖簾代わりに幟が横に下げてあり、首を曲げると「お弁当」という文字が読める。
 
  「アパッチ 食堂」

 正面のガラスサッシを開けて中に入った。右手は奥行きが広く左手が狭い台形であり、正面奥側にカウンター席がある。六席くらいであろうか。右手壁にも壁カウンターがあり、手前窓側に向かっても座れるようになっていた。
 カウンターの左手にお一人、右手側にお二人、店内には三名の先客の方がおられた。奥の調理場の中にマスターのお姿があった。左右の皆さんに頭を下げながら間に座らせてもらった。
 
 並びの方が頼まれたのを聞いて、梅干し入チューハイ(350円)を私もお願いする。
 カウンターに座ってみて気づいたことある。カウンターの真ん中辺りと、奥の調理場側との間に、橋のような板が渡してあったことである。
 
 「いろいろと工夫があるんですね」と言ってカウンターから調理場に渡してある板を指さす。
 すると、マスターがその板を外してしまった。
 「これ、外すとね、こっち側にも座れるんだよ」
 マスターが指さしたカウンターの向側にも作り付けの座る場所があるのだった。つまり、我々の座っていたカウンターには、向かい合わせにも座ることが出来たのである。
 「凄いですね、びっくりしました」と私は素直に驚いてしまった。
 
 壁のメニューを見る。
 「出来るものは出来るけど、出来ないものは出来ないよ~」とマスター。常連の皆さんが笑う。
 先客の方がイワシの煮付けを食べておられたので私も同じものにする。
 イワシ煮付け(250円)である。

 イワシ煮付けを美味しくいただきながら次の飲み物を考える。
 
 「そば湯割りなんて、どうです。冷たいのと暖かいのとあるけど、冷たい方が今は旨いよ、評判がいいんだ」とマスター。 
 
 そば湯割り冷(350円)である。
 マスターに聞けば、午前十一時から営業しているとのこと。終わりは午後九時である。
 昼間は食堂として、そばうどん丼物を出しているお店である。
 そばを茹でる時に出来たそば湯を冷蔵庫で冷やしておいて、焼酎を割って作ったものである。
 そば湯割り・冷というネーミングが楽しい。

 左端の方が先に帰られた。その後に座らせてもらうと、カウンターの右端の液晶テレビが見やすいのである。
 「みんなね、その席が好きみたいだよ」とマスター。
 
 板わさ(100円)とはしょうが漬け(150円)を頼む。
 はしょうが漬けらっきょう一個がおまけでついてくる。
 「らっきょう、一個おまけねえ」とちゃんと言ってくれる。

 定休日を聞いてみる。「休みは特に無い」とのこと。
 並びの方がホッピーを頼まれた。焼酎の量が多い。 
 
 「ホッピーのみたいんですけど、焼酎が多いですねえ、どうしようかなあ」と私。
 「大丈夫だよ、飲めるよ」。
 マスターは笑っている。

 ホッピーセット氷なし(350円)をお願いする。
 氷なしにすると、焼酎の量がはっきりわかる。焼酎は多分普通の倍である。
 そこで、隣の方に焼酎半分を飲んでもらうことにした。
 「御商売の邪魔するようで申し訳ないんですが、マスター、半分飲んでもらっていいですか?」
 「どうぞ・・・」とおっしゃる。
 何も口をつけないうちに、私の焼酎を半分、隣の方のジョッキに入れてもらった。

 ホッピーが飲めたことがうれしい。
 「つまみ何にしますかねえ・・・」
 「厚あげなんか、どうです。安いし、人気ありますよ」
 マスターのおっしゃる通りにする。厚揚げ焼き(100円)である。

 ずいぶんと時間がたってしまった。午後7時15分から8時15分まで一時間ほどの滞在。
 お勘定は1750円であった。

 マスターと常連の皆さんに声をかけ、お店を出る。皆さん、初めての私にやさしくしてくださった。感謝である。
 外に出てふりかえった。入り口右手の白い壁に手書きで店名が書いてあることに気づいた。
 「アパッチ食堂」と読める。でも、「アパッチ」「食堂」が空いていて、よく見ると消した「砦」の文字が透けて見えた。元々はその店名だったのだろうか。今更もどって聞く訳にもゆかない。次回の楽しみが出来た。面白い。
 歩道橋に隠れた「食堂」は、僕ら酒飲みの楽しい「砦」であった。




矢口渡 食べ処・飲み処「アパッチ食堂」
住所 東京都大田区多摩川1-1-6
電話 ?
定休 不定休
営業時間 11:00~21:00
交通 東急多摩川線矢口渡駅下車徒歩2分。





ホッピー原理主義者とは?
ホッピービバレッジが推奨する飲み方【3冷】を【原理】として、どこの酒場でもできるだけ原理通りの飲み方をしようと努力する酒飲みのこと。特に、大量の氷と多すぎる焼酎を入れたホッピーは、焼酎のオンザロックのホッピー味であって、本当の「ホッピー」ではないと考える。ホッピービバレッジの「飲み方いろいろ」を参照。

「ホッピーを原理主義的に飲む方法」はこちら

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テーマ : 居酒屋
ジャンル : グルメ

紹介 街の手帖池上線9「お昼休みはウキウキ 池上線沿線ランチ特集」

Life of the izakaya detective DAITEN
居酒屋探偵DAITENの生活


  ※居酒屋探偵DAITENもコラムを書かせてもらっている雑誌です。なお、交通新聞社刊の雑誌「散歩の達人9月号」「駅ぶらりんこ 雪が谷大塚駅(東急池上線)」という記事の中で「街の手帖 池上線9」が紹介されていました。
 
 
 池上線の文化誌
 街の手帖池上線9
 「お昼休みはウキウキ 池上線沿線ランチ特集」

 
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 以前にも紹介した雑誌「街の手帖池上線」は、隔月刊で発売されています。
 その第9号が発売される予定日となったので、7月22日(火曜日)の夜、雪谷大塚駅西口にある三州堂書店さんに行ってみました。
 「今日は発売されているかな?」と考え行ってみたのです。
 売っておりました。早速買ってしまいました。

 街の手帖池上線9「お昼休みはウキウキ 池上線沿線ランチ特集」
  
 実は、一ヶ月半ほど前、「街の手帖 池上線」編集部からご連絡をいただき、原稿執筆の御依頼を受けていたのです。ゆえに、私の原稿が載っています。

 「街の手帖池上線」第9号表紙写真 街の手帖池上線」第9号

 概要はこちらへ。

 19ページに新岳大典(居酒屋探偵DAITEN)という筆名で私の文章が載っています。ちょっと、気恥ずかしいのですが読んでいただければ幸いです。

  「沿線酒場探訪 ちいさなじゃんぼで~酒と線路とそよ風と~」千鳥町「じゃんぼ」篇

 なお、主な販売店は下記の通りです。

 三州堂書店 本店(雪が谷大塚)
 藤乃屋書店(御嶽山)
 BOOKS井上(石川台)
 井上書店(洗足池)
 BOOKS一二三堂(蒲田)
 ブックファースト(レミィ五反田店・大井町店・アトレ大森店・自由が丘店)
 島津山書店(五反田)
 草思堂書店(荏原町)
 たま書店(矢口渡)
 ジュンク堂書店(池袋本店ほか)

 その他、池上線沿線の特約店にて取り扱い中とのこと。


 定期購読、バックナンバー御購入についてはコトノハ/街の手帖編集部のサイトをご覧ください。

  街の手帖 池上線6 「沿線文化が花開く 池上線沿線「本」物語。」
  街の手帖 池上線7 「本の街 池上線」と、本にまつわるエッセイ。」
  街の手帖 池上線8 「洗足池・石川台・雪が谷大塚「わたしの街歩き2014」」

ホッピー原理主義者とは?
ホッピービバレッジが推奨する飲み方【3冷】を【原理】として、どこの酒場でもできるだけ原理通りの飲み方をしようと努力する酒飲みのこと。特に、大量の氷と多すぎる焼酎を入れたホッピーは、焼酎のオンザロックのホッピー味であって、本当の「ホッピー」ではないと考える。ホッピービバレッジの「飲み方いろいろ」を参照。

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蒲田 立ち飲み「銀次郎」第2回

Life of the izakaya detective DAITEN
居酒屋探偵DAITENの生活 第563回 2014年7月9日(水) 【地域別】 【池上線】 【時間順】 【がっかり集】


 ※2014年7月13日 1,300,000カウント通過。感謝!

 蒲田 立ち飲み「銀次郎」 第2回

 ~ 時間が止まったような場所 ~

 

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 雨が降っていた。
 雨の中、蒲田駅西口側の街を歩く。
 東急池上線ガード脇のバーボンストリート界隈を散策、飲屋街に何か変化がないか一通り目を通す為である。
 それから、駅前に戻ってみた。サンライズ商店街入口前を過ぎて、バスの発着場が並ぶ駅前通りの信号を渡り、バスが進入してくる側の通りをすすむ。そのまま行けば多摩堤通りである。
 その手前の比較的幅の広い通りを左に折れてみる。その左手側に蒲田で最も古いまま現存している立ち飲み店がある。
 蒲田に来た時は、いつも前を通ってみる。
 通るたびに「ずっと、この場所だけまるで時が止まったようだな・・・」と思うのである。

 

 正面入口の上のシャッターはいつも少し下げてある。シャッターと外壁の隙間の空間に冷蔵ケース等が積み重ねてあって、入口の上に黄色い提灯が三つ並んでいる以外は派手なものは何もない。高い位置に立飲み「銀次郎」と書かれたアクリル看板が上がっている。店の前の地面に置かれたアクリル看板は立ち飲み「銀次郎」となっている。この微妙な違いはよくあることだ。

 前回、こちらのお店を紹介したのは2008年8月24日(日)第131回であるから、実に6年前である。   
 初めて入店したのは、どれだけ前だろうか。昔から入店する前に少しの勇気が必要なお店であった。フロアを行ったり来たりしながら接客する親父さんが鋭い眼光で外を見ている時は、通り過ぎてしまう時もあった。今日こそは、また入ってみようと思う。
 入口に暖簾は無い。前回は下がっていた古びた縄暖簾も今はない。
 開け放たれた入口を入ってゆく。左手の壁には入口から奥まで長い壁カウンターがある。そこには10人位が立てるであろうか。正面右手、奥側にL字カウンターがあり、そこにも10人ほどが立てる。そのすぐ手前には高い立ち呑みテーブルがあり、その回りには4人ほど先客の皆さんがいらっしゃった。
 
 左手の壁カウンターの奥に近いほうに立った。財布から千円札を出して目の前に置く。そして目の前の壁を見る。
  「どなた様にも限らず現金でお願いいたします。」 「恐れ入れますが前金でお願いします。」という貼り紙は前と同じである。
 眼光鋭い親父さんにハイサワー(350円)をお願いする。
 こちらのお店は飲物や品物が来たら、目の前に置いた前金からとってもらい、お釣りを返してもらうシステムである。
 背後のグループの方のお一人が器を持って私のところに来られた。器の中身は川エビである。
 「どうぞ」とおっしゃる。いきなりの川エビである。
 「ありがとうございます」と言って数匹手にとった。
 ふり返って、皆さんの方に会釈する。

 次に、エシャレット(350円)を頼む。エシャレットは7本。1本50円である。
 皆さんの会話の中身はギャンブルのお話。いらっしゃっているのは男性のみ。完璧な親父酒場である。
 蒲田で最もディープな酒場である。
 また、グループの中の同じ方がこられて、今度は「小アジ唐揚げ」をくださった。面白い。
 もしかしたら、グループではなく、それぞれ別にいらして一緒に飲んでいる方々かもしれない。

 店内を見回す、カウンターの中のキッチンの高い位置に千円札をたくさん差した熊手がある。これは前と同じである。
 何も変わりがない店内の中で、大きく違う物を発見した。それは新品の大型冷蔵庫である。
 
 2杯目は清酒(350円)にしよう。そして、ツマミはイカの生姜焼き(450円)。シンプルかつ良い酒のツマミである。

 「あの、お酒常温とイカの生姜焼きお願いします」と言う。
 「はい、常温にイカの生姜焼きねえ」と親父さん

 常温の酒を呑みながら店内を見回す。壁に貼られた古い写真の中の親父さんお母さんは若い。
 色の変わった招きネコ。飴色の世界。
 語るべき物語が多すぎる。
 カウンターの中のお母さん。外回りの親父さん
 大将女将と呼ばず、そう呼びたくなる。
 驚くほど店内は変わらない、変わったのは前述の新型大型冷蔵庫だけかもしれない。

 最後に瓶ビール(大瓶)(500円)を頼んだ。
 黙っていてもキリンラガー大瓶が出てくる。
 お客さん親父さんお母さんのやり取りを背中に聴きながら味わい深い時を過ごす居酒屋探偵であった。
 
 「今日は雨でダメだなあ」と親父さんが道の反対側の飲食店の方に声をかける。
 雨はまだ降っている。

 「ごちそうさまでした」と、親父さんお母さんに声をかける。
 そして、川エビ唐揚げ小アジの唐揚げをくださった常連の皆さんの方へ顔を向けた。
 「ありがとうございました」と満面の笑みで礼を言ってから外に出た。
 「どうも~」等と言ってくださる。

 短い間であり泊めてもらってはいないけれど、いわゆる一宿一飯の恩義である。

 この日払った金額は、ハイサワー(350円)、エシャレット(350円)、清酒(350円)、イカの生姜焼き(450円)、瓶ビール(大瓶)(500円)で2,000円ちょうどであった。

 


 立ち飲み銀次郎看板

蒲田 立ち飲み「銀次郎」
住所 東京都大田区西蒲田7-29-3 久保井ビル
電話 03-3731-3086
定休日 ? 営業時間 ? 
交通 JR京浜東北線蒲田・東急池上線・東急多摩川線蒲田駅下車徒歩2分



ホッピー原理主義者とは?
ホッピービバレッジが推奨する飲み方【3冷】を【原理】として、どこの酒場でもできるだけ原理通りの飲み方をしようと努力する酒飲みのこと。特に、大量の氷と多すぎる焼酎を入れたホッピーは、焼酎のオンザロックのホッピー味であって、本当の「ホッピー」ではないと考える。ホッピービバレッジの「飲み方いろいろ」を参照。

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居酒屋探偵DAITENの生活 「あえて店名を伏せたまま」第2回『池上線某駅近く 本当に名も無き激安居酒屋にて』

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居酒屋探偵DAITENの生活 「あえて店名を伏せたまま」第2回 『池上線某駅近く 本当に名も無き激安居酒屋にて』


 居酒屋探偵DAITENの生活 「あえて店名を伏せたまま」第2回 
 『池上線某駅近く 本当に名も無き激安居酒屋にて』

 

  仙台四郎(写真はイメージです)
  
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 台風は去っていた。
 しかし、空はまだ不安定だ。一昨日、九州に上陸した台風は日本列島の南岸を舐めるように通り過ぎ、房総半島の南端をかすめるように再び上陸、昼前には太平洋へと抜けていった。
 空を見ながら歩くのも久しぶりだった。西の空と東の空の色が違っている。
 夕暮れは近い。北側の住宅の日照を奪わないように手前から階段状に高くなってゆく真新しいマンションの外壁や窓に当たる西陽が眩しい。遠く南の空にまだ青い色が残っていた。
 しかし、振り返れば淡墨で描いたような空が不安を誘う。
 鞄の中を探り、折り畳み傘に触れ、その有無を確かめた時、小さな赤提灯を見つけた。

 この地区はくまなく歩いている。かつてスナックだったと聞いているが、ずっと長い間、お店としては営業していなかった。外観を観察する。右手にドアがあり、左手の方にいくつか小窓があるけれど、中から何か貼ってあるようで店内は見えない。ドアに透明の小さなガラスが入っているので辛うじて店内が少し見えた。人の姿は見えない。
 ここで、不思議なことに気づいた。看板がどこにも無いのである。店名を書いた小さなプレートのようなものもない。

 雨が降り始めた。雨に背中を押されドアを開いた。
 左手にカウンターがあり、その一番奥にカジュアルな服装の方が座っていた。
 立ち上がりながら「いらっしゃいませ」とおっしゃるので、お店の方であることが解った。
 カウンターは六席のみである。カウンターの中、左手にテレビがある。
 手書きのメニュー二枚一組が二組置いてある。飲物と食べ物の二枚に別れているのだ。
 飲物のメニューの中にホッピーセットを発見する。値段は三五〇円。
 最近は四五〇円の設定にしているお店が多いので、この三五〇円というセット価格は安い。
 しかし、驚くのはまだ先であった。

 「ホッピー氷なしでお願いします」と言う。
 「氷無しですか・・・」とマスターらしき方。
 「はい、お願いします」
 「黒とノーマル、どちらにしますか?」
 一瞬、何を言われたのか解らなかった。しばらく答える間が空いてしまう。
 「じゃ、そのノーマルでお願いします」

 「ノーマル」という呼び方を実際耳にすると、黒いホッピー「黒」と呼ぶのは解るけれど、白くないホッピー「白」と呼ぶ一般的な言い方の方が違うのかもしれないと思えてくる。面白い。
 考えてみれば、一九九二年の黒ホッピーの製造開始により、黒ホッピーと区別する為に、既存のホッピーを皆が便宜的に「白ホッピー」と呼ぶようになったのだから「ノーマル」と呼んでも悪くないのである。

 目の前に業務用ではない一般販売用のホッピー瓶が出され、生ビール用のジョッキが続く。
 不思議なことに、次に出されたのは黒い升であった。
 そして、その升の中にグラスが立てられた。
 そのグラスにまるで純米吟醸酒を提供する時のように焼酎が注がれ、升にあふれさせくれたのである。
 長い間、ホッピーを楽しんできたけれど、実際には出会ったことのないホッピーセットである。
 少し調べてみると、ホッピーセットレモンサワーセットをこのスタイルで出すお店が下町に存在しているらしい。
  
 「凄いですねえ」と思わず言ってしまう。マスターの反応はない。
 ホッピーを口にしながら食べ物のメニューを見る。
 魚から野菜までなかなか豊富な内容のメニューである。しかし、驚いたのはその一品単価である。
 真鯛刺身は二〇〇円、シメサバは一二〇円である。
 両方たのんでみた。
  
 真鯛刺身は小ぶりな器にツマと大葉の上に五切れ、シメサバは横長の器に八切れのっている。それぞれ、二〇〇円と一二〇円というのは驚異的価格である。そして、簡単に言えば、どちらもちゃんとしているのだ。

 牛スジ煮込み二〇〇円を頼む。牛スジと根菜類の煮込みである。
 食べながら、入る前に一番知りたいと思っていたことを思い出した。

 「こちらのお店にまったく気づかなかったんですけど、いつ頃開店されたんですか?」
 「昨日からです」
 「外に看板とか無かったんですけど・・・お店の名前は?」
 「別に何も無いです」
 「無い・・・そうですか・・・」

 ホッピーに入れる焼酎は半分だけ使っていた。
 緑茶割り(二八〇円)を飲んでみようと思う。でも、ホッピーセットの焼酎がもったいない。
 
 「あの、緑茶割りたのもうかと思うんですけど・・・ホッピーセットの焼酎が残っちゃってもったいないので、これ使って作ってくれませんか?」

 ホッピーの残り焼酎を使った緑茶割りを作ってもらった。
 後で計算するとこの緑茶割りを半値にしてくれたようだ。

 ツマミが安いと思うと、ついつい次々に頼んでしまう。しかも、メニューには私の好きなものばかりが並んでいるのだ。
 チキンカツ(二〇〇円)は我慢をした。しかし、納豆オムレツ(一八〇円)は頼んでしまった。

 バイスを飲みたくなった。バイスセット(三五〇円)のバイスのみは一四〇円とのこと。
 バイスをジョッキに入れてもらい、きゅうりたたき(一五〇円)も追加する。
 ホッピーに加え、下町系の飲物の一つ、バイスが飲めるのが素晴らしい。
 バイスは、コダマ飲料が販売する「コダマサワー」シリーズの中の一つで、フレーバーとして赤ジソが使われている。

 「何時から何時までやっているんですか?」
 「三時半からですね」
 「御休みは?」
 「今のところ無いです」
 「日曜日もやってるんですか?」
 「はい、一時から六時までだけですけど」 

 やはり、私の好物であるタコの唐揚げ(二八〇円)を頼み、ツマミが揚げ物なので生ビール(三五〇円)を飲みたくなる。

 「いま、生なんですかぁ・・・」とマスター。
 「ええ、最初じゃなくて、最後に生ビールって変ですよね・・・」と私。
 マスターは何も言わない。
 
 そして、冷えたフローズンジョッキで生ビールが出てきた。
 タコの唐揚げと合うのだ。

 これだけ、飲んで食べてお勘定を聞いてみれば、二一三〇円であった。

 「小銭をピッタリ払いたい人なんで・・・すみません」といって、小銭を探して払い、外に出た。
 雨はすでにやんでいた。

 よく、名も無き人々とか、名も無き・・・という言葉を比喩として使うことはある。
 しかし、こちらのお店は、本当に店名は「別に何も無い」のであった。

 店名が無くても、充実した内容で激安ならば、やがて人が集まるに違いない。
 席も六席しかない。再訪した時、満席で入れないかもしれない。
 
 


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テーマ : 居酒屋
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武蔵新田 ちょい呑みフェスティバル開催のお知らせ

その他各種情報


 武蔵新田 ちょい呑みフェスティバル開催のお知らせ

 東急多摩川線武蔵新田駅周辺の商店街で開催されるイベントです。
 武蔵新田は居酒屋の宝庫といえる街です。居酒屋探偵daitenもいつもお世話になってます。

 「武蔵新田ちょい呑みフェスティバル」

 開催日 2014/7/25(金)~2014/7/26(土)
 時 間 夕方~ラストオーダーまで
 最寄駅 東急多摩川線 武蔵新田
 場 所 武蔵新田商店街

 システムはこんな感じのようです。
 まず、3枚綴りの「ちょい呑み券」を購入。「ちょい呑みMAP」に記載された参加店舗の中から行きたい店舗3つを選んだら、最初の店で「ちょい呑みセット」を楽しみ、次の店舗に移動して呑んで食べて、また次の店舗へとみんなではしご酒をするというもの。前売り券を購入すると、景品が当たるかもしれないそうです。

 前売り券:2,400円/当日券:2,500円
 (前売り券は各参加店・販売店で販売、サイトから予約も可)

    

 参加店、販売店など詳しくは公式サイトをご覧下さい。

テーマ : 居酒屋
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蓮沼 居酒屋「パライソ」第2回

Life of the izakaya detective DAITEN
居酒屋探偵DAITENの生活 第562回 2014年7月2日(水)  【地域別】 【池上線】 【時間順】 【がっかり集】



 蓮沼 居酒屋「パライソ」 第2回

 ~ まるでオリンピックかワールドカップのように ~


  


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 居酒屋を多く巡っている。しかし、身は一つだ。しかも、若い頃のように、毎日酒場に行ったり、何軒も梯子酒をする体力もない。でも、いつまでも居酒屋でささやかな楽しい一時を過ごしたいと思う。ゆえに、一回行った店に再び行くまでは間があいてしまうのだ。だから、顔を覚えられることは少ない。それは、客観的でいられるという点ではとても良い。

 そんな私を驚かせてくれるお店に再訪した。そのお店は池上線の蓮沼駅の東側徒歩3分の場所にある。
 蓮沼駅の五反田方面の改札を出て踏切を渡り右へ。蒲田方面の改札を出たなら踏切を渡らず右へ。すると、一角に交番のある五叉路がすぐあり、さらに歩くと、大田都税前という信号のある交差点に出る。そこを左に曲がり、二本目の道が半分に狭くなっている右手角に、この特徴的な看板(下写真)が見える。居酒屋「パライソ」さんだ。

  

 この看板以外は典型的な「小料理屋さん」風の地味な外観である。
 ガラス格子の引き戸の左側を開けて中に入る。目の前の横一列のカウンターの中で野球帽をかぶり、眼鏡をかけたマスターが笑顔で迎えてくれる。隣にはママさん。カウンター席は5席、右手の奥に個室がある。カウンターの右端に男女カップルが座っていらっしゃる。

 カウンターの左端に座らせてもらう。左手の壁やカウンターの上の壁など、あちらこちらにメニューが貼ってある。
 今日も私はつまみ選びに迷いに迷うに違いない。
 
 「あの、ホッピーセット白氷無しでお願いします」と私。

 ビアグラスに焼酎が入ったものとホッピー瓶のホッピーセット(450円)が出てくる。ホッピーを飲みながら手元のメニューや壁のメニューを眺め迷う。

 「ポテトサラダお願いします。」と私。
 「はい、ポテトサラダ~」
 と、よく通る声でマスターが復唱する。
 「・・・お客さん、始めてじゃないですよね」
 「はい、何度か来たことあります。」
 「たしか、四年くらい前にいらっしゃいましたよね」
 「はい、そのくらいにはなりますね」
 「たしか、ホッピーを呑まれましたよね」
 「はい、呑みました」
 「カウンターのこちらの辺りに座られましたよね」
 「はい、そうです。すごいですね、よく覚えていらっしゃる・・・」

 たしかに、前回紹介した第386回の時に訪問したのは足かけ四年前の冬であり、マスターの指し示す席で最初にホッピーを呑んだのである。

 「四年もたっちゃって、オリンピックワールドカップみたいですよね」と私。

 男爵ポテトサラダ(340円)はキュウリ、トマトが付いている。ポテトサラダを食べてみれば、そのお店が解ると私は思っている。美味しくいただく。

 前回の時、ホッピーについて、細かく説明をしてしまった為に、覚えてもらっていたのかもしれない。そして、その時にも頼んだニンニクを使わない手作り餃子(300円)も注文する。ママさんの手作りである。

 2杯目はトマト割(370円)を呑みたいと思う。メニューにトマト割トマトサワー(350円)の両方が載っているので安心して頼める。炭酸の入ったトマト味の焼酎サワーをトマト割といっているお店に出会ったことがあるからである。

 ホッピー瓶をカウンターの上へ出す。
 「もう、ホッピーのんじゃったんですかあ?」と笑顔のマスター。
 「ホッピーは一度に全量使ってしまって、とかとかもやらないんで・・・」
 「そうですかあ」
 「トマト割りお願いします」
 「トマトサワーではなくて、割りのほうですね」
 「はい、トマトサワーは苦手な方なので」

 餃子を食べた後、続けて、3品目としてもやし炒め(200円)も頼んだ。
 一人で食べるには量があり、トマト割をどんどん呑んでしまい、続けて、3杯目のチューハイ(300円)を頼んでしまった。今日はすすむ。

 常連の皆さんと大田区の黒湯温泉の話をする。楽しい。さらに、常連らしき男性が入ってこられた。
 4品目はゲソバター(280円)。入店してすぐに頼もうとしてやめていたものである。
 健康を気にして酒を少なくしている。コレステロールが気になる、プリン体が恐い、カロリーの多そうな物は控えたいなどと考えている。
 でも、酒が3杯目をすぎると心のタガがちゃんとはずれるのだ。
 
 4杯目はついに生ビールである。ピルスナーグラス生(440円)。

 マスターの気づかいはすごい。それぞれのお客さんの話題を受け止め、他のお客様にパスをする。場が盛り上がる。
 このままでは、どんどん呑んでしまうので、お勘定をお願いすることにした。
 4杯・4品2,890円であった。今回は呑んで食べてしまった。

 「四年に一回とは言わず、半年に一回くらいお越しくださいませねぇ」とマスターがおっしゃる。
 そう言われても少しも嫌味にならない。
 少し歩いてからふり返る。黄色い看板が遠くからこちらを呼んでいる。
 出来るだけ、早めにまた来よう。

  


蓮沼 居酒屋「パライソ」
住所 東京都大田区西蒲田6-18-18(1F南側)
電話 03-3734-1171
定休日 月曜・木曜休
営業時間 18:00~ 
交通 東急池上線蓮沼駅下車徒歩3分。



ホッピー原理主義者とは?
ホッピービバレッジが推奨する飲み方【3冷】を【原理】として、どこの酒場でもできるだけ原理通りの飲み方をしようと努力する酒飲みのこと。特に、大量の氷と多すぎる焼酎を入れたホッピーは、焼酎のオンザロックのホッピー味であって、本当の「ホッピー」ではないと考える。ホッピービバレッジの「飲み方いろいろ」を参照。

「ホッピーを原理主義的に飲む方法」はこちら

実力派俳優になりたい方はこちらを是非ごらんください→ 守輪咲良のSAKURA ACTING PLACE

テーマ : 居酒屋
ジャンル : グルメ

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プロフィール

新岳大典

Author:新岳大典
新岳大典(ARATAKE DAITEN)
作家・コーディネーター。

居酒屋探偵daiten(izakaya detective DAITEN)として活動。劇集団咲良舎制作。多目的スペース「かたびら・スペース・しばた。」クリエイティブ・ディレクター。
演出家守輪咲良のブログ「さくらの便り」ブログ「人間日和」を運用中。
2011.7よりfacebook参加。2011.8より「ブクログのパブー」にて居酒屋短編小説を中心に発表開始。
 2014年9月6日より独自ドメイン取得によりURLがhttp://daitenkan.jp/に変更。

 なお、ブログのプロフィール写真は仙台四郎(せんだいしろう)の人形を撮影したもので新岳本人ではない。
 その時代、仙台四郎が訪れる店は繁盛するとして各地でもてなされたそうである。没後は商売繁盛の「福の神」としてその写真が店に飾られるようになったとのこと。

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