武蔵新田 角打ち酒店「飯田酒店」第3回
Life of the izakaya detective DAITEN
居酒屋探偵DAITENの生活 第655回 2018年2月16日(金)
【横浜市】 【池上線】 【その他】 【時間順】 【がっかり】 ←クリックしてみてください。
武蔵新田 角打ち酒店「飯田酒店」 第3回
~ 地域社会にとって必要な場所 ~

西日本では春一番が吹いたそうだ。梅の開花も始まっている。
昨日は暖かい日和であったが今日は冷え込んでいる。まさに、三寒四温の始まりか。
もう少しで、花見酒が話題となる季節がやってくる。
酒屋さんの店内で飲ませてもらえる「角打ち」。
昔はどの街にも一箇所はそんな店があった。街工場で一日真っ黒になって働き、銭湯で汗と汚れを落として、その帰りに角打ちのできる酒店さんの店頭で冷たいビールやお酒をあおる。それは高度成長期の横浜、川崎、東京の下町では当たり前の風景だった。
ところが、最近は各地からどんどん「角打ち」のできる酒店が無くなっている。
町工場が無くなってゆく、労働者の働き方も変わってゆく。
酒店を経営される方々も高齢化、さらに代替わりしてしまい、酒販の方法が変化して、コンビニエンスストアが増え、街の個人の酒店そのものも減ってゆく。昔、たくさんの町工場があり、実は昭和二十年代から三十年代は歓楽街でもあった武蔵新田。思いの外、居酒屋さんも多い。

そんな武蔵新田に降り立ったのは、金曜日の夕暮れ時。東急多摩川線の武蔵新田駅の多摩川方面の改札を出ると、すぐ右手に踏み切りがあり、渡ってすぐの線路沿いの道を多摩川方面へ行くと、今日の目的の店、飯田酒店がすぐ右手にあった。
前回、こちらのお店を紹介した第518回は、2013年5月であるから五年前、その前の第272回は、2009年10月で九年も前である。
その後も時々寄らせてもらったが三年以上は来ていないと思う。久しぶりに店に入ってゆき、右手の薄暗いカウンターへ入ってゆく。奥の方に三人の人生の先輩たち。店の中央の大きなテーブルに一人。先客は四人である。お店のお母さんが笑いの輪の中から出てきて、私のところに寄ってくる。
「何にしますか? お酒とか、ビールとか、サワーとか」
「寒いですね」
「昨日はけっこう暖かかったのにねえ」
「お酒にしようかな」
「温めますか?」
「いいですね」
「一杯目は温かい方がいいでしょう」と笑顔。
お酒を温めていただく。
ビアタンブラーにお酒が入り、少し大きめの皿にこぼしてある。
一口飲む。良いぬる燗だ。
お酒(二八〇円)。
カウンターに千円札を置くと、お母さんがお札を持ってゆき、おつりを置いてくださる。
少しお酒を吞んでから、お皿からコップへお酒をこぼさずに移す事ができた。
そんな時、酒呑みは少しうれしくなる。
お店のお母さんは変わらずお元気な様子。
「あれ食べます?」と、常連の方にお母さんが聞く。
「ああ、食べるよ」と常連の方。
「だんだん、歳をとると、みんな、あれとしか言わないよね、あれとあれで通じるよね。」
「あれとあれで通じますね」
笑いが場に広がる。
みんなで冬季オリンピックのテレビを見ている。スポーツは酒を飲む場の定番の話題。
そして、角打ち定番の6Pチーズ(一〇〇円)をお願いする。
飲み物はビール。缶ビールの一番搾り(三五〇円)にする。

女性二人のお客様が登場。
女性二人が角打、しかも水商売の方々ではない。
昔は角打に来る女性はプロの方々であることは定番だった。
それが今は違う。普通に二人で来て、普通に呑んで話している。
諸先輩のおじ様たちも楽しそうだ。
そして、さりげないお母さんの気配りが凄い。
そこへ、一人の男性が入ってきた。煙草が欲しい様子だ。
だが、何も言わない。タバコを指差している。
奥の方からお母さんが出てくる。男性はお金を渡して何も言わず出て行った。
「何か一言、言えばいいのにねぇ・・・話せるのに」と笑っている。
「そうですねぇ・・・話すのが面倒なんでしょう」
ちょうど良いので、揚げ塩落花生(二〇〇円)をお母さんにお願いすることにした。
「揚げ塩落花生ください」と私。
何かのついでに自分も頼む。これは酒場での気づかいである。
お母さんが揚げ塩落花生をお皿にあけてくれた。美味しい。
お酒がすすんでしまう。
三杯目は宝焼酎ハイボールシークァーサー(三三〇円)を頼んだ。

私を含めて店内のお客様は八名となった。
池上本門寺様近くの池上梅園の噂。
そして、お店のお客様同士の噂話は、知らない人の話でも面白い。
「俺にしゃべる隙を与えないうちのカミさんはなんだろう」とおっしゃる方。爆笑がおこる。前後を聞き逃したが面白い。
そして、話題は介護と医療。
早い時間からやっている酒場はデイサービスであると私は思う。
人と人の交流の場である。
「孤独死を防ぐ拠点が居酒屋やスナックである」という意見があるが賛成だ。
お母さんは一人一人とコミュニケーションをとってくれる。
その気づかいが素晴らしい。
ここは地域社会にとって必要な場所である。
三人の先輩たちがひやおろし四合瓶をあけた。
銘柄は見えない。
それぞれのお酒のうんちくを話しておられる。楽しそうだ。
諸先輩の方々の赤い顔が可愛い。
午後六時から七時までぴったり1時間の滞在。三杯二品で一二六〇円であった。
武蔵新田 角打ち「飯田酒店」
住所 東京都大田区矢口1-7-18
電話 03-3758-2405
定休日 ?
営業時間 夕方から~
交通 東急多摩川線武蔵新田駅下車徒歩30秒。
「ホッピーを原理主義的に飲む方法」はこちら。
演出家守輪咲良の劇集団「咲良舎」と演技私塾「櫻塾」
街の手帖については、コトノハ/街の手帖編集部へ。
居酒屋探偵DAITENの生活 第655回 2018年2月16日(金)
【横浜市】 【池上線】 【その他】 【時間順】 【がっかり】 ←クリックしてみてください。
武蔵新田 角打ち酒店「飯田酒店」 第3回
~ 地域社会にとって必要な場所 ~

西日本では春一番が吹いたそうだ。梅の開花も始まっている。
昨日は暖かい日和であったが今日は冷え込んでいる。まさに、三寒四温の始まりか。
もう少しで、花見酒が話題となる季節がやってくる。
酒屋さんの店内で飲ませてもらえる「角打ち」。
昔はどの街にも一箇所はそんな店があった。街工場で一日真っ黒になって働き、銭湯で汗と汚れを落として、その帰りに角打ちのできる酒店さんの店頭で冷たいビールやお酒をあおる。それは高度成長期の横浜、川崎、東京の下町では当たり前の風景だった。
ところが、最近は各地からどんどん「角打ち」のできる酒店が無くなっている。
町工場が無くなってゆく、労働者の働き方も変わってゆく。
酒店を経営される方々も高齢化、さらに代替わりしてしまい、酒販の方法が変化して、コンビニエンスストアが増え、街の個人の酒店そのものも減ってゆく。昔、たくさんの町工場があり、実は昭和二十年代から三十年代は歓楽街でもあった武蔵新田。思いの外、居酒屋さんも多い。

そんな武蔵新田に降り立ったのは、金曜日の夕暮れ時。東急多摩川線の武蔵新田駅の多摩川方面の改札を出ると、すぐ右手に踏み切りがあり、渡ってすぐの線路沿いの道を多摩川方面へ行くと、今日の目的の店、飯田酒店がすぐ右手にあった。
前回、こちらのお店を紹介した第518回は、2013年5月であるから五年前、その前の第272回は、2009年10月で九年も前である。
その後も時々寄らせてもらったが三年以上は来ていないと思う。久しぶりに店に入ってゆき、右手の薄暗いカウンターへ入ってゆく。奥の方に三人の人生の先輩たち。店の中央の大きなテーブルに一人。先客は四人である。お店のお母さんが笑いの輪の中から出てきて、私のところに寄ってくる。
「何にしますか? お酒とか、ビールとか、サワーとか」
「寒いですね」
「昨日はけっこう暖かかったのにねえ」
「お酒にしようかな」
「温めますか?」
「いいですね」
「一杯目は温かい方がいいでしょう」と笑顔。
お酒を温めていただく。
ビアタンブラーにお酒が入り、少し大きめの皿にこぼしてある。
一口飲む。良いぬる燗だ。
お酒(二八〇円)。
カウンターに千円札を置くと、お母さんがお札を持ってゆき、おつりを置いてくださる。
少しお酒を吞んでから、お皿からコップへお酒をこぼさずに移す事ができた。
そんな時、酒呑みは少しうれしくなる。
お店のお母さんは変わらずお元気な様子。
「あれ食べます?」と、常連の方にお母さんが聞く。
「ああ、食べるよ」と常連の方。
「だんだん、歳をとると、みんな、あれとしか言わないよね、あれとあれで通じるよね。」
「あれとあれで通じますね」
笑いが場に広がる。
みんなで冬季オリンピックのテレビを見ている。スポーツは酒を飲む場の定番の話題。
そして、角打ち定番の6Pチーズ(一〇〇円)をお願いする。
飲み物はビール。缶ビールの一番搾り(三五〇円)にする。

女性二人のお客様が登場。
女性二人が角打、しかも水商売の方々ではない。
昔は角打に来る女性はプロの方々であることは定番だった。
それが今は違う。普通に二人で来て、普通に呑んで話している。
諸先輩のおじ様たちも楽しそうだ。
そして、さりげないお母さんの気配りが凄い。
そこへ、一人の男性が入ってきた。煙草が欲しい様子だ。
だが、何も言わない。タバコを指差している。
奥の方からお母さんが出てくる。男性はお金を渡して何も言わず出て行った。
「何か一言、言えばいいのにねぇ・・・話せるのに」と笑っている。
「そうですねぇ・・・話すのが面倒なんでしょう」
ちょうど良いので、揚げ塩落花生(二〇〇円)をお母さんにお願いすることにした。
「揚げ塩落花生ください」と私。
何かのついでに自分も頼む。これは酒場での気づかいである。
お母さんが揚げ塩落花生をお皿にあけてくれた。美味しい。
お酒がすすんでしまう。
三杯目は宝焼酎ハイボールシークァーサー(三三〇円)を頼んだ。

私を含めて店内のお客様は八名となった。
池上本門寺様近くの池上梅園の噂。
そして、お店のお客様同士の噂話は、知らない人の話でも面白い。
「俺にしゃべる隙を与えないうちのカミさんはなんだろう」とおっしゃる方。爆笑がおこる。前後を聞き逃したが面白い。
そして、話題は介護と医療。
早い時間からやっている酒場はデイサービスであると私は思う。
人と人の交流の場である。
「孤独死を防ぐ拠点が居酒屋やスナックである」という意見があるが賛成だ。
お母さんは一人一人とコミュニケーションをとってくれる。
その気づかいが素晴らしい。
ここは地域社会にとって必要な場所である。
三人の先輩たちがひやおろし四合瓶をあけた。
銘柄は見えない。
それぞれのお酒のうんちくを話しておられる。楽しそうだ。
諸先輩の方々の赤い顔が可愛い。
午後六時から七時までぴったり1時間の滞在。三杯二品で一二六〇円であった。
武蔵新田 角打ち「飯田酒店」
住所 東京都大田区矢口1-7-18
電話 03-3758-2405
定休日 ?
営業時間 夕方から~
交通 東急多摩川線武蔵新田駅下車徒歩30秒。
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街の手帖については、コトノハ/街の手帖編集部へ。