居酒屋探偵DAITENの「がっかり録」第10回/池袋を彷徨い、疲れた背中を見る
居酒屋探偵DAITENの「がっかり録」第10回 【地域別】 【時間順】 【がっかり集】
池袋を彷徨い、疲れた背中を見る
先日の日曜の午後、池袋へ行かなければならない用事があった。ちょうど東京メトロ副都心線が開通したばかりなので、用事を済ませた後、池袋から渋谷まで新線に乗ってみることにした。池袋は副都心線の開通の為であろうか大変な人出であった。
今から25年ほど前、当時勤務していた会社への通勤途中の乗換駅であり、また、サンシャイン60ビルの中に得意先があったので、毎日のように池袋の街に来たものである。さらに、先輩や友人たちと仕事帰りに酒を飲むのも池袋が多かった。
西口ならばロサ会館のあたりでよく飲んだ。終電を逃してしまい、深夜営業の映画館で始発を待ったこともあった。東口ならば、駅前の明治通りを渡って、グリーン大通りを進み、東口五差路から60階通りに入ったあたりによく出没したように思う。
グリーン大通りと60階通りに挟まれた三角地帯にある「美久仁小路」、「人世横丁」、「栄町通り」といった闇市から生まれた飲屋街のある場所を歩いてみることにした。
「栄町通り」と書かれたアーケードを見上げていると、若い男性が二人、その中に入って行った。後からついてゆく。すると、二人は「すごいね」「昭和だね」などと、しきりに感心している。もちろん、日曜の午後である。やっている店は一軒もない。その路地は30メートルほど進むと右に曲がり、すぐ終わってしまった。路地を出て、右に曲がる。先ほどの「栄町通り」の入口に近い方へ戻ると、「美久仁小路」と書かれたアーケードがあった。「通り抜けられます」とアーケードの柱に書かれている。なにやら、懐かしい気持ちになる。「美久仁小路」を30メートルほど進むと、道は左に折れ、すぐに右に折れて、クランクになっている。その折れ曲がる角の部分に、有名な居酒屋「ふくろ」の美久仁小路店がある。以前から紹介してみたいと思っていた店である。しかし、西口の「ふくろ」は日曜でも昼間から営業しているが、こちらの店は日曜日が休みである。仕方なく、店の外観を撮影する。クランクの部分を過ぎて、30メートルほど歩くと出口がある。その出口を右に曲がると、右手の建物と建物の間に狭い路地を発見した。「通り抜けられます」と書いてある。この路地を入ると、先ほどの「ふくろ」の脇に出られるようになっているのである。
さらに進み、交差点を右に曲がった。すぐ左手に、また路地の入口を発見する。「人世横丁」である。この「人世横丁」は実に面白い形状をしている。私が入った路地を30メートルほど進むと、全長50メートルほどの路地にぶつかる。この二つの路地を途中からつなぐ15メートルほどの斜めの道があり、ちょうど横丁の中心部分に三角形の地域が出来上がっているのである。まだ、営業している店は無いようである。写真を撮りながら歩いた。すると、出口に近い一軒の店の入口が開いていた。中に数人の人影がある。暖簾も出ていないので、中がよく見えるのだ。カウンターの中に、高齢の女将さんらしき人が立っている。薄暗く狭い店の中に、数人の老人たちが座っている。ビール瓶やコップが彼らの前にある。しかし、暖簾も出ておらず、入口に看板も何もないので、営業中とはとても思えない。私のような新参者が入り込める雰囲気ではない。
「人世横丁」から外に出ると、その場所から「栄町通り」や「美久仁小路」の入口が見えた。頭がクラクラするような感覚をおぼえた。なにやら、迷宮に迷い込んだようである。
たくさんの酒飲み達が、この迷宮を彷徨い、痛飲したのであろう。昔は老いも若きもよく飲んだ。泥酔し前後不覚になる者、肩を組み横一列で道をふさぐ酔っぱらい、道端で寝込む者、立ち小便する姿、飲み過ぎて吐いてしまう者、本当に酒飲み達が危うかった。それに比べれば、マナーが特に良いとは思えないが、今の若者たちはずっと上品に見える。
迷宮のような路地を彷徨い、歩き続け、実に面白かった。しかし、疲れた。早い時間から営業している店を見つけて飲みたいと思った。
近くに、「紅とん」の支店を見つけたが営業開始まで時間がある。そこで、「清龍」の東口店に行ってみることにした。再び、60階通りを渡り、サンシャイン通りに向かう。
しかし、四階建ての「清瀧東口店」は、シャッターが閉まり、閉店状態になっていた。表に貼り紙がある。建て替え工事のお知らせであった。230円という安さで酎ハイが飲める。酒も一合270円である。昔の単価は百円代であったように思う。
「清瀧東口店」から駅の方へ向かい、三越が角にある交差点を渡り、駅のすぐ近くに残る横丁に入り込む、その中に「清瀧本店」はある。のぞくと店内は満席であつた。
仕方なく、他の店を探すことにした。しばらく探して、一軒の寿司屋を発見する。入ってみようと考えた。しかし、ちょっと嫌な感じがする。後で解ったことではあるが、そこは、SAKURAが以前に話していた、「一期一会」の店、「がっかりな店」であった。
寿司屋に入ることは止めにして、その地下の居酒屋に入ることにした。入口の生ホッピーの文字と7時まで200円という「キャッチ」につられて階段を降りてしまった。なんとなく、この店には昔入ったような気がするのである。もちろん、昔のままの店名や経営とは限らないが建物は昔のままのようである。
さっそく、200円の生ホッピーを頼んだ。ジョッキも冷えており、一瞬生ビールを間違えて持ってきたのではないかと錯覚してしまった。
午後7時まで200円の値段のつまみがたくさんある。生ホッピーを呑みながらメニューを見ている。味玉そぼろと生のり酢を頼んだ。どちらも200円である。量の少ないお通しが最初に出てきた。これは300円である。200円のつまみより300円のお通しの方が貧弱なのはどうもバランスが悪い。
新しい客が入ってくる。店員が走ってゆく、注文をとって戻ってくる。カウンターの中にいる料理担当の人間に、注文の内容を告げると、その人間が「なんだ、全部200円かよ」と言った。気持ちは解るが客の前では言わない方がよい。
やがて、二人客がやってきた。四人席に座ろうとする。脱兎の如く店員が走ってゆく。そして、四人席に座ってしまった客を立ち上がらせ、大テーブルに移動させた。店内はガラガラである。そこまでする必要もないのではないだろうか。
店の一番奥にいる店主らしき親父がその店員を酷く怒っている。何かに対する反応が遅かったようである。店員教育は必要であるが客の前ではやめた方がよい。
やがて、初老の男性客が若い女性を連れて入ってきた。まだ、店全体は空いているのに私の左隣のカウンター席に座らされる。年齢的にバランスの悪いカップルである。女性は真四角の化粧バックを手にしている。それをカウンターの上に置いた。邪魔である。これでは料理を置く場所もない。女性がトイレに行って来ると言う。すると、あまり景気が良さそうな顔をしていない男性客が何か言った。声が小さいのでよく聞こえない。それに答えて、「○○は~○○さんには隠し事はしてないから~」などと舌たらずに言う。明らかに、キャバクラ出勤前のキャバ嬢と同伴出勤の客のように見える。歓楽街の近くで良く見かけるような不自然なカップルだ。「池袋だなあ」と思う。
日曜日の夕暮れ時だからであろうか、次々に入って来るお客達がなんとなく疲れた雰囲気を背中に漂わせている。生ホッピーを呑みながら、全部がお通しのような、冷めたツマミを食べる。なにやら、酷く貧しい気持ちになってきて店を出ることにした。お勘定は1400円であった。
思えば、1階にSAKURAが「がっかり店」だと言った寿司屋があり、地下に私が発見した「がっかり店」の居酒屋があったのである。時間もまったく違うのに、お互い打ち合わせもせずに、それぞれ上下に存在する「がっかり店」に入ってしまったのである。もしかして、同じ経営者ではないだろうか。
この後も池袋の街をずいぶんと歩いた。副都心線に乗って帰ることにする。副都心線の改札を目指して地下道を歩く私自身の背中も酷く疲れて見えたに違いない。
(了)
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池袋を彷徨い、疲れた背中を見る
先日の日曜の午後、池袋へ行かなければならない用事があった。ちょうど東京メトロ副都心線が開通したばかりなので、用事を済ませた後、池袋から渋谷まで新線に乗ってみることにした。池袋は副都心線の開通の為であろうか大変な人出であった。
今から25年ほど前、当時勤務していた会社への通勤途中の乗換駅であり、また、サンシャイン60ビルの中に得意先があったので、毎日のように池袋の街に来たものである。さらに、先輩や友人たちと仕事帰りに酒を飲むのも池袋が多かった。
西口ならばロサ会館のあたりでよく飲んだ。終電を逃してしまい、深夜営業の映画館で始発を待ったこともあった。東口ならば、駅前の明治通りを渡って、グリーン大通りを進み、東口五差路から60階通りに入ったあたりによく出没したように思う。
グリーン大通りと60階通りに挟まれた三角地帯にある「美久仁小路」、「人世横丁」、「栄町通り」といった闇市から生まれた飲屋街のある場所を歩いてみることにした。
「栄町通り」と書かれたアーケードを見上げていると、若い男性が二人、その中に入って行った。後からついてゆく。すると、二人は「すごいね」「昭和だね」などと、しきりに感心している。もちろん、日曜の午後である。やっている店は一軒もない。その路地は30メートルほど進むと右に曲がり、すぐ終わってしまった。路地を出て、右に曲がる。先ほどの「栄町通り」の入口に近い方へ戻ると、「美久仁小路」と書かれたアーケードがあった。「通り抜けられます」とアーケードの柱に書かれている。なにやら、懐かしい気持ちになる。「美久仁小路」を30メートルほど進むと、道は左に折れ、すぐに右に折れて、クランクになっている。その折れ曲がる角の部分に、有名な居酒屋「ふくろ」の美久仁小路店がある。以前から紹介してみたいと思っていた店である。しかし、西口の「ふくろ」は日曜でも昼間から営業しているが、こちらの店は日曜日が休みである。仕方なく、店の外観を撮影する。クランクの部分を過ぎて、30メートルほど歩くと出口がある。その出口を右に曲がると、右手の建物と建物の間に狭い路地を発見した。「通り抜けられます」と書いてある。この路地を入ると、先ほどの「ふくろ」の脇に出られるようになっているのである。
さらに進み、交差点を右に曲がった。すぐ左手に、また路地の入口を発見する。「人世横丁」である。この「人世横丁」は実に面白い形状をしている。私が入った路地を30メートルほど進むと、全長50メートルほどの路地にぶつかる。この二つの路地を途中からつなぐ15メートルほどの斜めの道があり、ちょうど横丁の中心部分に三角形の地域が出来上がっているのである。まだ、営業している店は無いようである。写真を撮りながら歩いた。すると、出口に近い一軒の店の入口が開いていた。中に数人の人影がある。暖簾も出ていないので、中がよく見えるのだ。カウンターの中に、高齢の女将さんらしき人が立っている。薄暗く狭い店の中に、数人の老人たちが座っている。ビール瓶やコップが彼らの前にある。しかし、暖簾も出ておらず、入口に看板も何もないので、営業中とはとても思えない。私のような新参者が入り込める雰囲気ではない。
「人世横丁」から外に出ると、その場所から「栄町通り」や「美久仁小路」の入口が見えた。頭がクラクラするような感覚をおぼえた。なにやら、迷宮に迷い込んだようである。
たくさんの酒飲み達が、この迷宮を彷徨い、痛飲したのであろう。昔は老いも若きもよく飲んだ。泥酔し前後不覚になる者、肩を組み横一列で道をふさぐ酔っぱらい、道端で寝込む者、立ち小便する姿、飲み過ぎて吐いてしまう者、本当に酒飲み達が危うかった。それに比べれば、マナーが特に良いとは思えないが、今の若者たちはずっと上品に見える。
迷宮のような路地を彷徨い、歩き続け、実に面白かった。しかし、疲れた。早い時間から営業している店を見つけて飲みたいと思った。
近くに、「紅とん」の支店を見つけたが営業開始まで時間がある。そこで、「清龍」の東口店に行ってみることにした。再び、60階通りを渡り、サンシャイン通りに向かう。
しかし、四階建ての「清瀧東口店」は、シャッターが閉まり、閉店状態になっていた。表に貼り紙がある。建て替え工事のお知らせであった。230円という安さで酎ハイが飲める。酒も一合270円である。昔の単価は百円代であったように思う。
「清瀧東口店」から駅の方へ向かい、三越が角にある交差点を渡り、駅のすぐ近くに残る横丁に入り込む、その中に「清瀧本店」はある。のぞくと店内は満席であつた。
仕方なく、他の店を探すことにした。しばらく探して、一軒の寿司屋を発見する。入ってみようと考えた。しかし、ちょっと嫌な感じがする。後で解ったことではあるが、そこは、SAKURAが以前に話していた、「一期一会」の店、「がっかりな店」であった。
寿司屋に入ることは止めにして、その地下の居酒屋に入ることにした。入口の生ホッピーの文字と7時まで200円という「キャッチ」につられて階段を降りてしまった。なんとなく、この店には昔入ったような気がするのである。もちろん、昔のままの店名や経営とは限らないが建物は昔のままのようである。
さっそく、200円の生ホッピーを頼んだ。ジョッキも冷えており、一瞬生ビールを間違えて持ってきたのではないかと錯覚してしまった。
午後7時まで200円の値段のつまみがたくさんある。生ホッピーを呑みながらメニューを見ている。味玉そぼろと生のり酢を頼んだ。どちらも200円である。量の少ないお通しが最初に出てきた。これは300円である。200円のつまみより300円のお通しの方が貧弱なのはどうもバランスが悪い。
新しい客が入ってくる。店員が走ってゆく、注文をとって戻ってくる。カウンターの中にいる料理担当の人間に、注文の内容を告げると、その人間が「なんだ、全部200円かよ」と言った。気持ちは解るが客の前では言わない方がよい。
やがて、二人客がやってきた。四人席に座ろうとする。脱兎の如く店員が走ってゆく。そして、四人席に座ってしまった客を立ち上がらせ、大テーブルに移動させた。店内はガラガラである。そこまでする必要もないのではないだろうか。
店の一番奥にいる店主らしき親父がその店員を酷く怒っている。何かに対する反応が遅かったようである。店員教育は必要であるが客の前ではやめた方がよい。
やがて、初老の男性客が若い女性を連れて入ってきた。まだ、店全体は空いているのに私の左隣のカウンター席に座らされる。年齢的にバランスの悪いカップルである。女性は真四角の化粧バックを手にしている。それをカウンターの上に置いた。邪魔である。これでは料理を置く場所もない。女性がトイレに行って来ると言う。すると、あまり景気が良さそうな顔をしていない男性客が何か言った。声が小さいのでよく聞こえない。それに答えて、「○○は~○○さんには隠し事はしてないから~」などと舌たらずに言う。明らかに、キャバクラ出勤前のキャバ嬢と同伴出勤の客のように見える。歓楽街の近くで良く見かけるような不自然なカップルだ。「池袋だなあ」と思う。
日曜日の夕暮れ時だからであろうか、次々に入って来るお客達がなんとなく疲れた雰囲気を背中に漂わせている。生ホッピーを呑みながら、全部がお通しのような、冷めたツマミを食べる。なにやら、酷く貧しい気持ちになってきて店を出ることにした。お勘定は1400円であった。
思えば、1階にSAKURAが「がっかり店」だと言った寿司屋があり、地下に私が発見した「がっかり店」の居酒屋があったのである。時間もまったく違うのに、お互い打ち合わせもせずに、それぞれ上下に存在する「がっかり店」に入ってしまったのである。もしかして、同じ経営者ではないだろうか。
この後も池袋の街をずいぶんと歩いた。副都心線に乗って帰ることにする。副都心線の改札を目指して地下道を歩く私自身の背中も酷く疲れて見えたに違いない。
(了)
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