戸越銀座 焼鳥「もつ平」
※2008年10月2日 150000カウント達成。感謝!
戸越銀座 焼鳥「もつ平」


すっかり秋めいて肌寒い日が続いている9月末である。
東急池上線の戸越銀座駅は踏切を挟んで上りと下りに別れてホームがあり、それぞれに改札口がある。その五反田方面の上りホームのガラスの無い窓から赤い提灯が見える。提灯には「焼鳥もつ平」と書いてある。五反田方面の改札を出て、踏切を渡らず右へ。駅舎に沿ってある狭い路地を歩いてゆくと左手に「もつ平」はある。ホーム脇のこの路地は人と人がやっとすれ違える程度の幅しかない。
「もつ平」は過去に何度か来たことがある店である。ASIMO君と一緒に来店したこともあるが記事にはしなかった。さらに、並びにも居酒屋があった。しかし、今は閉店してしまっている。
汚れで薄暗くなってしまっている照明付の看板。煤けたテント、汚れた赤提灯、店に入ってみると、店の中も至るところ炭で煤けている。典型的な焼鳥(もつ焼)屋である。
中のよく見えるガラスの三枚戸の一枚を開けると、右手にL字カウンターがある。ガラス戸を背に2人、奥に向かって7人ほどが座れる。L字カウンターの中は調理場で、角の部分に焼き台があり、炭がおきている。ガスではなく、ちゃんと炭火である。
店内には先客が一人座っていた。店の奥の高いところにブラウン管テレビがある。先客の方は話し好きでマスターにずっと話しかけている。
ここのサワー類はサワーグラスではなく、小ぶりのタンブラーで出される。ホッピーも瓶がついてくるのではなく、タンブラーに焼酎を入れてホッピーを注いだ状態で出てくる。そのことはよく知った上で、ホッピー(380円)を氷無しで頼んだ。予想通り、タンブラーに8分目ほど注がれたものが出てきた。氷の分、量が少ないのである。残りのホッピーには気が抜けないように蓋をしておくのであろう。
氷無しのぬるいホッピーをなめるようにして飲みながら焼き物を考える。
最初は取っつき難い雰囲気のマスターである。目の中に鋭いものがある。しかし、常連ではない客を値踏みするのは「男」の客相手の商売では仕方がないのである。はじめての店に入る時この目で何度見られたことであろうか。
テレビでは相撲のニュースをやっている。さきほどの話し好きのお客さんと、相撲の話題で二言三言会話をする。
かしら、たん、はつ(各90円)をお願いする。「一本ずつですか?」「塩ですか?」と聞いてくれる。やりとりをする度に、だんだんとマスターの語気がゆるんでゆくのが解る。こういうことも居酒屋探偵の楽しみの一つである。
煮込み(300円)も頼んだ。モツにコンニャクが少し入っている。柔らかくよく煮込まれた味噌仕立ての煮込みである。
焼き物は、小ぶりではあるが美味しかった。これで90円なら文句はない。
やがて、女性が一人入ってきた。
「お持ち帰りできますか?」と言う。言葉の感じから中国系の方と思われる。
もつ焼きを十数本頼んで、カウンターの一番奥に座る。何か飲む様子はない。
そこへ常連らしき方々三人が一人ずつ次々に入ってきた。マスターはお持ち帰りの焼き物を焼き初めている。常連の方々はお互いに簡単な挨拶を交わす。互いの安否をさりげなく聞き合うのである。曰く「元気だった?」「昨日は会わなかったね」といった会話である。○○さん、○○ちゃんと名前で呼び合っている。常連ではない客は、中国系の女性と私だけである。
常連の人たちは、忙しそうなマスターの手元を見ながら注文をしている。途中ピンク電話が懐かしい音をたてて何度もなる。その度に手を止めてマスターが出る。お客さんがマスターのいない間、炭の様子を気にしている。この微妙なやりとり面白いのである。マスター一人でやっている店の場合、手が回らないことが多い。それを客が様子を見ながら協力をするのである。この微妙な呼吸が解らず、自分勝手な注文や催促は無粋である。
中国系の女性がお持ち帰りの焼き物を受け取って帰って行った。
マスターの手が空いたところで厚揚げ(350円)をお願いする。さらに、サッポロ黒生ビール大瓶(550円)も頼んだ。忙しい中、サワー類を何度も作ってもらうことを控えたのである。
斜め右の席のお客さんがずっと携帯をいじっている。昔の探偵や刑事は手帳にメモをしたが、「居酒屋探偵」は価格やちょっとしたメモを携帯に打ちこむ。しかし、狭いカウンターの店の場合、自分だけが携帯をいじっていると気がひけるのである。ゆえに、他にも携帯を操作している方がいると助かるのである。
下町の酒場であまり携帯ばかりいじっていると、他のお客さんに何か言われるかもしれない。城南の居酒屋ではお互いを放っておいてくれる場合が多い。
昔の大衆酒場は地域によっては本当に恐かった。職人風の人生の先輩の方にからまれることもあった。すわった目でお説教もされた。喧嘩もあった。自分自身を振り返っても荒れた気分になる時もあった。しかし、今の大衆酒場は背広組のサラリーマンも多く、お互いあまり干渉しない。紳士的とも言えるが、それだけ互いの関係性が薄れたとも言えるのである。
焼き台の一番端に薬缶がのっていた。その薬缶も煤で黒くなっている。その黒い部分に誰かの名前が書いてある。落書きである。いつ誰が書いたのであろうか。マスターも覚えていないほど前かもしれない。
今日も常連の皆さんの間で、「心地よい孤独」を味わうことが出来た。何か考え事がある時は一人酒に限るのである。
午後6時20分から1時間ほどの滞在、お勘定は1,850円であった。

戸越銀座 焼鳥「もつ平」
(やきとん)
住所 東京都品川区平塚2-16-13
電話 03-3786-4129
東急池上線戸越銀座駅徒歩10秒
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ホッピービバレッジが推奨する飲み方【3冷】を【原理】として、どこの酒場でもできるだけ原理通りの飲み方をしようと努力する酒飲みのこと。特に、大量の氷と多すぎる焼酎を入れたホッピーは、焼酎のオンザロックのホッピー味であって、本当の「ホッピー」ではないと考える。ホッピービバレッジの「飲み方いろいろ」を参照。
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