雑色 もつ焼き酒場「三平」
雑色 もつ焼き酒場「三平」



↑お店の北西側の入口
前回の店を出て、京急川崎駅から京浜急行に乗った私が降り立ったのは多摩川を渡ってすぐの六郷土手駅であった。まだ時間は4時前である。六郷土手駅周辺を歩くもそれらしい居酒屋も角打も無い。すぐそばを通る第一京浜国道を歩き始めた。国道沿いには特に何もない。1キロメートル以上歩いたところで、左手に雑色駅がある十字路に出た。第一京浜国道を渡り、雑色駅とは反対方向に続く商店街を歩き始める。水門通り商店街である。しばらく歩いて、料理がうまいと評判のある居酒屋の前を通った。まだ店内を掃除中の様子である。今回はあきらめることにして、さらに先へ歩いた。
特に目的は無いのである。歩き始めると足が止まらない。ついに商店街のおしまいまで行ってしまった。
早い時間に売り切れ必至のある店へ行ってみることに決めた。しかし、どちらに向かっているか解らない状態になっていたのである。実は、この自分がどちらに向かっているか解らないという状態が好きなのである。携帯を使えば地図が見られる。簡単に自分の位置が解る。それでは面白くないのである。右斜めの方を見ると、多摩川の土手らしきものが見えた。頭の中の怪しい地図と見比べる。左方向へ歩いて行く。羽田方面へ向かうバスが通り過ぎる。この道を進んではいけないことに気づく。ここで、我が機は左に大きく旋回する必要があることを知る。セブンイレブンの前に出る。トイレを借りる。それから販売している地図を見たいという気持ちになる。それを抑え、外に出て左に曲がった。地番は南六郷2丁目である。ここで携帯電話の中に入っている目的の店の住所を見たいという欲求にかられてしまう。ついに住所を見てしまった。
ここからは早い。東京都大田区南六郷1-8-5という頭の中に入った番地と道路脇の様々な住所表記とを照らし合わせながらどんどん歩く。小さな商店街に出て進む。角店の北東側からのアプローチであった。その店はあまり有名になってしまったもつ焼きの店、もつやき酒場「三平」である。
北東側からは入らず、北西側の入口から入った。入って右手にはテーブル席が並んでいる。左手奥には、強面のマスターが立つ焼き台があり、その前にコの字カウンターがある。ただし、コの字の角の一つが斜めになっている変則的なコの字カウンターだ。テーブル席に2つのグループ。カウンターには4人グループとカップルが一組。比較的空いている。
コの字カウンターの端、焼き台のマスターから見たら左の端に座った。マスターの背後には調理場があり、そこに男性と女性が立っておられた。
女性の方が出てこられて、カウンターに座ろうとした私に「もう、焼き物はかしらしかないんですよ」とおっしゃる。
「はい、いいですよ~」と答え、マスターの背後の焼き物の札は、たしかに「かしら」と「うずら」だけである。
「かしら3本とうずら1本、それからレガッタをお願いします」
「たれですか?」
「はい、たれでお願いします。」と答える。
レガッタ(480円)とはウィスキーのウーロン茶割りのことである。「三平」発祥の飲み物であるらしく、特に大田区の東部地区のお店で飲むことの出来る飲み物である。考えてみれば、焼酎のウーロン茶割がどこの居酒屋でも普通に飲まれている中、その焼酎をウイスキーに変えてみるという発想に何の不思議もないのである。
そして、レガッタにはポッキーが1本だけ挿してあるのである。スナックなどで、つまみとしてポッキーが出てきた時、ウイスキーの水割を飲みながら、ポッキーを一本とって、それで水割りを混ぜたりする、あの感じなのだろうか。
レガッタを飲みながら、店内を見廻す。焼き台のマスターの正面の壁には先代らしきご夫婦の写真が貼ってある。
マスターがかしらの一本目とうずらを出してくれる。短めの串に刺されたややこぶりの肉片のかしらは柔らかい。
レガッタを口にする。少しあって、また一本かしらが出てくる。半生であるが気にせず食べる。レガッタを口にする。さらに三本目が出てくる。
たくあんを少しだしてくれた。日本酒一合(250円)をお願いする。黄桜は250円、剣菱は330円と書いてある。
ここの日本酒はタヌキの形をした特別なとっくりを使っている。二合のとっくりは無いのかとのお客さんの質問に対して、昔はあったのだけれど割れてしまって今は残っていないのだとの答えであった。
次に何を食べるか考える。考えてみてもあるのは「かしら」のみである。塩で頼むことにする。
「かしらを塩で2本お願いします」と言う。
かしら塩が来るまでに、塩豆を出してくれた。第95回で紹介した西日暮里のもつ焼き「菊一」を思い出す。
コの字カウンターの反対側のカップルの若い男性がお店の方からティッシュをもらい、塩豆をくるんで持ってかえられた。若いのに偉いではないか。食べ切れなければ持ち帰る。よいことである。
かしらが塩で2本出てくる。私としては塩の方が好きだった。2本目にはさらに青のりをかけて食べる。一つの種類の肉を続けて食べる工夫である。
壁に、「本日は6時閉店です」と書いてあった。土曜日に6時に終わってしまうというお店も珍しい。5時になった。外の暖簾が仕舞われた。店内の片付けも始められる。
お勘定をお願いする。金額は1,270円。午後4時35分から5時5分まで30分の滞在。
肉は「かしら」だけだった。しかし、食べられただけ運がよいと思う。
一つ、面白い発見があった。私が勝手にもっていた「無口で頑固なマスター」というイメージはまったく違っていた。たまたま忙しくない時間であったからかもしれないけれど、今日のマスターはよく話してくれた。
外に出る。少し気温は下がってきたけれど、まだ明るい。本当はそろそろ帰らなければならない時間だ。しかし、また歩きはじめてしまう。行き先は決まっていない。路地を曲がるとまた何かが待っているかもしれない。
(つづく)

雑色 もつ焼き酒場「三平」
住所 東京都大田区南六郷1-8-5
電話 03-3732-1468
定休日 日曜・祝日
営業時間 平日14:00~21:00 土曜12:00~18:00(売切れ次第終了)
交通 京浜急行京急雑色駅徒歩8分
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ホッピービバレッジが推奨する飲み方【3冷】を【原理】として、どこの酒場でもできるだけ原理通りの飲み方をしようと努力する酒飲みのこと。特に、大量の氷と多すぎる焼酎を入れたホッピーは、焼酎のオンザロックのホッピー味であって、本当の「ホッピー」ではないと考える。ホッピービバレッジの「飲み方いろいろ」を参照。
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