居酒屋探偵DAITENの「がっかり録」第17回/こんな夢を見たような・・・
居酒屋探偵DAITENの「がっかり録」第17回 【地域別】 【時間順】 【がっかり集】
こんな夢を見たような・・・
ある用事を済ませた後、横浜の住宅街をあてもなく歩いていた。
気がつくと、青く塗られた大屋根が目の前にある。
屋根の一番高い位置に「神奈川スケートリンク」という看板があった。建物の裏側である。表側まで回り込んでみた。5歳くらいの頃の記憶がよみがえってくる。父親と母親に連れられて、このスケートリンクに来たことが何度かあった。満州生まれの父は、満州での学生時代、アイスホッケーの選手であったという。若くして死んだ父の広いリンクを高速で滑る雄姿は、本当の記憶なのか、私の脳が創り出してしまった夢の記憶なのか、もはや定かではない。スケートリンクの建物を見あげながら短い追憶の時を過ごした。
←「神奈川スケートリンク」
神奈川スケートリンクの前は第二京浜国道(国道1号線)であり、その向こう側にはJR線の線路が通っている。やがて、京浜東北線の青い車両が通り過ぎていった。
道の向こうを眺めていると、そこにあろうはずのない水辺が見えた。不思議に思い、道を渡ってみると、第二京浜国道の下の暗渠になっているところから川がちょうど地上に出てきていた。そこから川が始まっていたのである。川沿いを少し歩いてみることにした。
川沿いの道はJR京浜東北線と東海道線のガード下を抜け、さらに京浜急行線の下もくぐった。
ここで思った。
「あの酒場は、たしか第一京浜国道と細い川の交わる場所にあったのではないだろうか」
しばらくして橋を渡った。川沿いに遊歩道が造られている。
← 滝の川
どうやら、滝の川という川のようである。遠くに高速道路が通っているのが見えた。そこまで歩いてみる。気が付けば大通りに出てしまっていた。第一京浜国道である。少し戻ってみる。すると、角地の古い建物の高い位置に看板を発見した。「市民酒場みのかん」と書いてある。
← 市民酒場「みのかん」 「暖簾が出ていない・・・」
以前から行ってみたかった「市民酒場みのかん」にたどり着いたのである。しかし、暖簾が出ていない。休みであろうか。だが・・・人の気配がする。
しばらく躊躇ってから入口の引き戸に手を掛けた。中をのぞいて驚いた。満席である。左手の4人掛けテーブル席三つ。右手のカウンター席10席ほど。全て満席の様子。カウンターの一番奥の中側に大将らしき方が立っている。特に何も言う様子もない。しかし、こちらのお店の接客については承知しているので気にしなかった。
カウンターの中央辺りに一席だけ椅子を発見した。左右の方にお願いして、ずれてもらいそこに座った。
左隣の白いシャツにネクタイの方が「今日は、出てくるの遅いですよ」とおっしゃる。
「そうなんですか、びっくりするほど混んでいますね」と答えた。
大将が近づいて来て、
「今日はどういう訳か混んでしまって、何も出来ないんですよ」とおっしゃる。
手でグラスを飲み干す仕草をして「これだけでもダメですか?」と言ってみる。
大将は奥に行って、調理場の中の女将さんと相談をしていた。
少しして、女将さんが調理場の中から顔をだした。
「今日は、もう何も無くなってしまって、お出し出来ないんですよ」と申し訳なさそうに言う。
これ以上の無理強いをしても仕方がないので、「それじゃ、帰ります」と言い、左右の方に礼を言ってから外に出た。
すると、店の外で男女二人連れの方に出会った。
「あれ、終わりかなあ」とおっしゃる。
「私も今、入ってすぐに出されちゃったんですよ」と答えた。
常連の方らしく「珍しいなあ・・・」とおっしゃりながら中に入って行かれた。
その方々もまた断られて出てきた。すると、中から鍵が掛けられてしまった。
閉店前の野毛は「武蔵屋」のようである。
こちらのお店に関する情報はインターネット上にたくさん掲載されている。味わいのある建物で、これだけ安く飲める店は他になかなか無い、午前中から営業しているのも利点である。ゆえに土曜日ともなると遠くから多くの方々が訪れるに違いない。私もそんな一人であった。その為、夕方になって地元の常連の方々が来てみると入れないということになってしまう。
お店の存続の為にお客様は必要である。しかし、あまりにも集中して混み合ってしまい、お店の方々が消耗してしまっては元も子もない。痛し痒しの問題である。
※ ※ ※
仕方なく第一京浜国道を川崎方面に向かって歩いてみた。しばらくして、左手に曲がると京浜急行の仲木戸駅についた。仲木戸駅の東側にはJR京浜東北線の東神奈川駅があり、二つの駅は150メートルほどしか離れていない。
ここで、仲木戸駅から京浜急行に乗ってみることにした。電車は500メートルほど離れた次の神奈川新町駅で長い間止まった。急行の通過を待つ為である。京浜急行の各駅停車に乗っていると、こういう通過待ちは当たり前である。しかし、今日はなにやら酷く損をしたような気がした。
やっと走り出した電車は、やはり500メートルほどしか離れていない次の子安駅まで妙にゆっくりと走っていった。少し苛立った私は、その次の京急新子安駅で降りてしまうことにした。こちらの駅前には有名な大衆酒場、市民酒蔵「諸星酒場」があるのだ。
京急新子安駅の改札を出て、右手の階段を降りてみた。すると、目の前にJR京浜東北線の新子安駅が見えた。左手には京浜急行の踏切がある。この踏切を渡って来なければJRの新子安駅前に入ることは出来ない。
この踏切を渡ると、京浜急行、JR線、第一京浜の上を渡る神奈川産業道路の陸橋が右手に見え、そこが駅前ロータリーになっていた。陸橋の上から回転しながらロータリーに降りることが出来、そのまま第一京浜に出ることが出来る。
その駅前ロータリーに面して市民酒蔵「諸星」はある。前述のお店が市民酒場でこちらのお店は市民酒蔵、横浜市民は「市民」という言葉が好きである。店の前に立った。
← 市民酒蔵「諸星」 「シャッターが閉まっている・・・」
シャッターが閉まっていた。土曜、日曜、祝日が定休日であった。土曜は営業していると思いこんで来てしまったのである。
なにやら悪夢のようだ。
そのまま、新子安駅からJR京浜東北線に乗りこんだ。沿線にある様々な酒場が頭に浮かんだ。候補は10軒以上ある。
蒲田駅で降りると、駅周辺の何軒かの酒場の前まで行ってみた。しかし、どこにも入る気持ちになれない。
最後にある店の前に立った。名前が気になってずっと入りたいと思っていた店である。曇りガラス越しに外からお客さんの背中が見えた。しかし、すでに午後7時近いというのに暖簾が出ていない。見知らぬ人の背中が恐かった。
しばらく考え、店に入ることが出来ぬままその場を離れた。ついにその夜はどこの酒場にも入ることが出来なかったのである。
ずっと以前、こんな夢を見たような・・・そんな気がした。
(了)
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こんな夢を見たような・・・
ある用事を済ませた後、横浜の住宅街をあてもなく歩いていた。
気がつくと、青く塗られた大屋根が目の前にある。
屋根の一番高い位置に「神奈川スケートリンク」という看板があった。建物の裏側である。表側まで回り込んでみた。5歳くらいの頃の記憶がよみがえってくる。父親と母親に連れられて、このスケートリンクに来たことが何度かあった。満州生まれの父は、満州での学生時代、アイスホッケーの選手であったという。若くして死んだ父の広いリンクを高速で滑る雄姿は、本当の記憶なのか、私の脳が創り出してしまった夢の記憶なのか、もはや定かではない。スケートリンクの建物を見あげながら短い追憶の時を過ごした。

神奈川スケートリンクの前は第二京浜国道(国道1号線)であり、その向こう側にはJR線の線路が通っている。やがて、京浜東北線の青い車両が通り過ぎていった。
道の向こうを眺めていると、そこにあろうはずのない水辺が見えた。不思議に思い、道を渡ってみると、第二京浜国道の下の暗渠になっているところから川がちょうど地上に出てきていた。そこから川が始まっていたのである。川沿いを少し歩いてみることにした。
川沿いの道はJR京浜東北線と東海道線のガード下を抜け、さらに京浜急行線の下もくぐった。
ここで思った。
「あの酒場は、たしか第一京浜国道と細い川の交わる場所にあったのではないだろうか」
しばらくして橋を渡った。川沿いに遊歩道が造られている。

どうやら、滝の川という川のようである。遠くに高速道路が通っているのが見えた。そこまで歩いてみる。気が付けば大通りに出てしまっていた。第一京浜国道である。少し戻ってみる。すると、角地の古い建物の高い位置に看板を発見した。「市民酒場みのかん」と書いてある。

以前から行ってみたかった「市民酒場みのかん」にたどり着いたのである。しかし、暖簾が出ていない。休みであろうか。だが・・・人の気配がする。
しばらく躊躇ってから入口の引き戸に手を掛けた。中をのぞいて驚いた。満席である。左手の4人掛けテーブル席三つ。右手のカウンター席10席ほど。全て満席の様子。カウンターの一番奥の中側に大将らしき方が立っている。特に何も言う様子もない。しかし、こちらのお店の接客については承知しているので気にしなかった。
カウンターの中央辺りに一席だけ椅子を発見した。左右の方にお願いして、ずれてもらいそこに座った。
左隣の白いシャツにネクタイの方が「今日は、出てくるの遅いですよ」とおっしゃる。
「そうなんですか、びっくりするほど混んでいますね」と答えた。
大将が近づいて来て、
「今日はどういう訳か混んでしまって、何も出来ないんですよ」とおっしゃる。
手でグラスを飲み干す仕草をして「これだけでもダメですか?」と言ってみる。
大将は奥に行って、調理場の中の女将さんと相談をしていた。
少しして、女将さんが調理場の中から顔をだした。
「今日は、もう何も無くなってしまって、お出し出来ないんですよ」と申し訳なさそうに言う。
これ以上の無理強いをしても仕方がないので、「それじゃ、帰ります」と言い、左右の方に礼を言ってから外に出た。
すると、店の外で男女二人連れの方に出会った。
「あれ、終わりかなあ」とおっしゃる。
「私も今、入ってすぐに出されちゃったんですよ」と答えた。
常連の方らしく「珍しいなあ・・・」とおっしゃりながら中に入って行かれた。
その方々もまた断られて出てきた。すると、中から鍵が掛けられてしまった。
閉店前の野毛は「武蔵屋」のようである。
こちらのお店に関する情報はインターネット上にたくさん掲載されている。味わいのある建物で、これだけ安く飲める店は他になかなか無い、午前中から営業しているのも利点である。ゆえに土曜日ともなると遠くから多くの方々が訪れるに違いない。私もそんな一人であった。その為、夕方になって地元の常連の方々が来てみると入れないということになってしまう。
お店の存続の為にお客様は必要である。しかし、あまりにも集中して混み合ってしまい、お店の方々が消耗してしまっては元も子もない。痛し痒しの問題である。
※ ※ ※
仕方なく第一京浜国道を川崎方面に向かって歩いてみた。しばらくして、左手に曲がると京浜急行の仲木戸駅についた。仲木戸駅の東側にはJR京浜東北線の東神奈川駅があり、二つの駅は150メートルほどしか離れていない。
ここで、仲木戸駅から京浜急行に乗ってみることにした。電車は500メートルほど離れた次の神奈川新町駅で長い間止まった。急行の通過を待つ為である。京浜急行の各駅停車に乗っていると、こういう通過待ちは当たり前である。しかし、今日はなにやら酷く損をしたような気がした。
やっと走り出した電車は、やはり500メートルほどしか離れていない次の子安駅まで妙にゆっくりと走っていった。少し苛立った私は、その次の京急新子安駅で降りてしまうことにした。こちらの駅前には有名な大衆酒場、市民酒蔵「諸星酒場」があるのだ。
京急新子安駅の改札を出て、右手の階段を降りてみた。すると、目の前にJR京浜東北線の新子安駅が見えた。左手には京浜急行の踏切がある。この踏切を渡って来なければJRの新子安駅前に入ることは出来ない。
この踏切を渡ると、京浜急行、JR線、第一京浜の上を渡る神奈川産業道路の陸橋が右手に見え、そこが駅前ロータリーになっていた。陸橋の上から回転しながらロータリーに降りることが出来、そのまま第一京浜に出ることが出来る。
その駅前ロータリーに面して市民酒蔵「諸星」はある。前述のお店が市民酒場でこちらのお店は市民酒蔵、横浜市民は「市民」という言葉が好きである。店の前に立った。

シャッターが閉まっていた。土曜、日曜、祝日が定休日であった。土曜は営業していると思いこんで来てしまったのである。
なにやら悪夢のようだ。
そのまま、新子安駅からJR京浜東北線に乗りこんだ。沿線にある様々な酒場が頭に浮かんだ。候補は10軒以上ある。
蒲田駅で降りると、駅周辺の何軒かの酒場の前まで行ってみた。しかし、どこにも入る気持ちになれない。
最後にある店の前に立った。名前が気になってずっと入りたいと思っていた店である。曇りガラス越しに外からお客さんの背中が見えた。しかし、すでに午後7時近いというのに暖簾が出ていない。見知らぬ人の背中が恐かった。
しばらく考え、店に入ることが出来ぬままその場を離れた。ついにその夜はどこの酒場にも入ることが出来なかったのである。
ずっと以前、こんな夢を見たような・・・そんな気がした。
(了)
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Re: お察しします。