ある居酒屋にて
居酒屋探偵DAITENの生活 番外編 第2回
ある居酒屋にて
~すべてを紹介しない理由~



〈居酒屋探偵DAITENの生活〉では、大規模居酒屋チェーン店は取り上げない。このことは前にも何度も書いている。しかし、今回は〈居酒屋探偵DAITENの生活・番外編〉として、日本全国どこの街にも必ずある、緩やかなフランチャイズチェーンの店のことを書いてみることにした。ただし、このお店の店名や場所はあえて公開しない。
※ ※ ※
「おしゃれな」という言葉で形容されるある街に、古い飲食店や居酒屋が集まっている地区がある。人気の居酒屋も数軒あって、どの店も居酒屋ファンの方なら一度は聞いたことのある名前かもしれない。
それぞれの店の前で、満席の為に入ることの出来ない人がたたずんでいる。順番を待つその人のそばを通り過ぎ、目的の店に入った。いつも空いているので、すんなりと入ることが出来る。店はずいぶんと古い造りである。何十年か前の開店当初は派手な色合いの看板がとても目立ったに違いない。しかし、今はその色もくすんでしまっている。
午後7時を少し廻った、普通は居酒屋が一番混み合うはずの時間だというのに、カウンター席に座っているお客さんは二人だけであった。この店には何度も来ている。来る度に何故か先客は二人だけである。
瓶ビールの大瓶と煮込みを頼んだ。私の好きな銘柄である。うまい。
ここのマスターはとても丁寧に相手をしてくれる。初めて来た時から今に至るまでそれは一貫している。そして、仕事も丁寧であり、まったく変わらない。ゆえに、たくさんのお客さんが来ても対応できないように思う。
酎ハイと谷中新生姜を頼んだ。
店内を見渡す。最近のコンセプト系レトロ居酒屋とは違い、本当に古い昭和の品々が壁や棚の上に残っている。そして、全体にとても落ち着いた緩い雰囲気が漂っている。何か注文をすると、硬い切符型の食券が発券され、カウンターの上に置かれる。今から40年以上前、両親と行ったデパートの「お好み食堂」を思い出す。
二階席も存在する。しかし、マスター一人なので二階席は使われておらず、客が二階にあがるのはトイレに行く時だけである。その二階に上がってみる。衝立で仕切られた向こう側にほこりを被ったテーブルや備品が置かれている。今にも衝立の向こうから何かの注文の声が聞こえてきそうである。
自分の席に戻り、マスターの手が空くのを待って生酒を頼んだ。
マニュアルではない機転のきいたマスターの接客が好きである。常連たちは、マスターを気遣い、マスターもそれに甘えることなく、礼儀正しく接している。
やがて、マスターが奥の調理場に入っている時、常連らしき方が入ってきた。その方は何も言わず、根気よく待っている。マスターが一人で店をやっていることをよく知っているからに違いない。他の人の注文した物を持ってマスターが調理場から出てくる。気づいたマスターが丁寧に謝り、「瓶ビールですか」と聞く。うなずく。瓶ビールが出される。それを飲む。深く小さな溜息。沈黙。
別の方が生ビールのお代わりを頼んだ。
「そっち終わってからでいいよ」とおっしゃる。
「お忘れものないように、ありがとうございました」とマスターは丁寧に送り出してくれる。
いつ来ても同じである。滑舌がよく、口跡が美しいのである。
また、来ようと思う。取材ではなく、ただ癒されたいからだ。
ある意味、私にとっての理想の店かもしれない。
初夏の夕暮れ間近、まどろむ夢の中にいるような、そんな気分で外にでることが出来た。
(初夏・某日)
ホッピー原理主義者とは?
ホッピービバレッジが推奨する飲み方【3冷】を【原理】として、どこの酒場でもできるだけ原理通りの飲み方をしようと努力する酒飲みのこと。特に、大量の氷と多すぎる焼酎を入れたホッピーは、焼酎のオンザロックのホッピー味であって、本当の「ホッピー」ではないと考える。ホッピービバレッジの「飲み方いろいろ」を参照。
「ホッピーを原理主義的に飲む方法」はこちら。
こちらクリックお願いします→ FC2 Blog Ranking
こちらクリックお願いします→ 人気blogランキングへ
実力派俳優になりたい人は→ 演出家守輪咲良のページ「さくらの便り」
No title