池上 居酒屋「滝亭」第3回
Life of the izakaya detective DAITEN
居酒屋探偵DAITENの生活 第593回 2015年06月19日(金) 【地域別】 【池上線】 【時間順】 【がっかり集】
池上 居酒屋「滝亭」 第3回
~ この空間を楽しむ為に ~

東京では珍しくなった構内踏み切りを有する木造駅舎。東急池上線池上駅の五反田方面のホームのすぐ南側の道沿いにそのお店はある。
入口から入ると、左側に四人掛けのテーブル、その向こうに六人掛けのテーブルが三つ。右側に席は無い。
入口右側に四角く区切られた場所があり、そこは串焼きの焼き台がある。一番奥に調理場があり、壁の色なども茶色く変色していて、全体に古く渋い作りである。

店全体がやや左に傾いている。客の側の勝手な言い分ではあるが、リニューアルせず、壊れた所を修理しながら、是非このまま維持して欲しい。
「女性一人でも安心して入れる店」などという、最近流行りの言葉の似合う店になど変わらないでいただきたい。
私は「女性が一人で入るには躊躇われるような店」に、平気で入ることの出来るような女性の方に魅力を感じてしまう。
レモンサワーの氷は白く白濁していた。三五〇円は安い。酸っぱいのも好みである。お通しは魚の煮物であった。
煮込み(四七〇円)を頼み、すぐに串物を選ぶ。カシラ、ナンコツ、レバー、シロ、ハツ、タン、ネギの七種から五本選んで一人前四二〇円。いわゆる「選べる五本縛り」である。私はレバーとシロ以外の五本でお願いした。
調理場と客席を隔てる境は斜めに傾いでいる。その調理場から焼き物がトレイに出され、入口を入って右手の焼き台で焼くのだ。
「串物の方は辛子味噌はお付けしますか?」
「お願いします」
煮込みは豆腐、大根、ごぼう、こんにゃくなど入って、レンゲがそえてある。辛子もいい。
御高齢の御婦人とその息子さんくらいの御常連。
「◯◯さん、ジャガベーコン」と調理場の白衣のお父さんへ。長年のつき合いであることが伝わってくる。
焼き物がやってくる。
ナンコツがシッカリコリコリ。昔、こういうものを日暮里のあるもつ焼き店では「コウコツ」と呼んでいた。
壁を見れば、「当店は外税です。」の張り紙がある。
左手の壁は全面が鏡になっており、店内を広く見せている。
四本の肉の串を食べる度に、ネギを一個、串から食べる。次の肉を食べたら次のネギを食べる。
二杯目は白鶴燗酒の大徳利(四八〇円)
定番メニュー以外もある。キーマカレーオーブン焼き、トマトカレーピザ、カレーチーズ焼きそばもあって、面白い。
いつもたのむ地ダコの刺身(四七〇円)を注文する。
別の新しいお客様から「サワラの炙り刺し」の注文が入る。
店内を歩くマスターがサワラの炙り刺しを作るため調理場に戻る途中で、自分の地ダコの刺身もお願いした。
酒を口に運び、地ダコの刺身を口に入れ、店内を眺め、ただただ、この空間を楽しむのだ。
昔来た時、店内左手奥の高い棚にあったブラウン管テレビが液晶テレビに変わっていた。
床もなんとなく、調理場の棚もなんとなく、全てが傾いでいる。
しかし、これは悪口ではない。
この空間にいると、不思議と落ち着くのである。

お勘定をお願いした。
二四七〇円か。千円札二枚と五百円玉で払い、十円玉を三枚受け取る。
マスターと少し話ができた。
「こちらのお店は何年前に始められたのですか」
「昭和四十三年です」
「そうですか、僕が最初に来たのは二十何年前なんです。」
「それじゃ、うちが養老の滝だった頃ですね。」
「そうですね、きっと」
「お忘れなく、また来てくださってありがとうございます」
外に出る。外はすっかり暗くなっていた。
池上駅の踏み切りとは別に、駅構内の踏み切りも鳴り始める。
自分は池上線沿線にいるのだと改めて感じた。


(了)

池上 居酒屋「滝亭」
住所 東京都大田区池上6-8-9
電話 03-3754-3285
定休日 月曜休
営業時間 17:00~23:00
交通 東急池上線池上駅下車徒歩1分
街の手帖については、コトノハ/街の手帖編集部へ。
「ホッピーを原理主義的に飲む方法」はこちら。
実力派俳優になりたい方はこちらを是非ごらんください→ 守輪咲良のSAKURA ACTING PLACE
居酒屋探偵DAITENの生活 第593回 2015年06月19日(金) 【地域別】 【池上線】 【時間順】 【がっかり集】
池上 居酒屋「滝亭」 第3回
~ この空間を楽しむ為に ~

東京では珍しくなった構内踏み切りを有する木造駅舎。東急池上線池上駅の五反田方面のホームのすぐ南側の道沿いにそのお店はある。
入口から入ると、左側に四人掛けのテーブル、その向こうに六人掛けのテーブルが三つ。右側に席は無い。
入口右側に四角く区切られた場所があり、そこは串焼きの焼き台がある。一番奥に調理場があり、壁の色なども茶色く変色していて、全体に古く渋い作りである。

店全体がやや左に傾いている。客の側の勝手な言い分ではあるが、リニューアルせず、壊れた所を修理しながら、是非このまま維持して欲しい。
「女性一人でも安心して入れる店」などという、最近流行りの言葉の似合う店になど変わらないでいただきたい。
私は「女性が一人で入るには躊躇われるような店」に、平気で入ることの出来るような女性の方に魅力を感じてしまう。
レモンサワーの氷は白く白濁していた。三五〇円は安い。酸っぱいのも好みである。お通しは魚の煮物であった。
煮込み(四七〇円)を頼み、すぐに串物を選ぶ。カシラ、ナンコツ、レバー、シロ、ハツ、タン、ネギの七種から五本選んで一人前四二〇円。いわゆる「選べる五本縛り」である。私はレバーとシロ以外の五本でお願いした。
調理場と客席を隔てる境は斜めに傾いでいる。その調理場から焼き物がトレイに出され、入口を入って右手の焼き台で焼くのだ。
「串物の方は辛子味噌はお付けしますか?」
「お願いします」
煮込みは豆腐、大根、ごぼう、こんにゃくなど入って、レンゲがそえてある。辛子もいい。
御高齢の御婦人とその息子さんくらいの御常連。
「◯◯さん、ジャガベーコン」と調理場の白衣のお父さんへ。長年のつき合いであることが伝わってくる。
焼き物がやってくる。
ナンコツがシッカリコリコリ。昔、こういうものを日暮里のあるもつ焼き店では「コウコツ」と呼んでいた。
壁を見れば、「当店は外税です。」の張り紙がある。
左手の壁は全面が鏡になっており、店内を広く見せている。
四本の肉の串を食べる度に、ネギを一個、串から食べる。次の肉を食べたら次のネギを食べる。
二杯目は白鶴燗酒の大徳利(四八〇円)
定番メニュー以外もある。キーマカレーオーブン焼き、トマトカレーピザ、カレーチーズ焼きそばもあって、面白い。
いつもたのむ地ダコの刺身(四七〇円)を注文する。
別の新しいお客様から「サワラの炙り刺し」の注文が入る。
店内を歩くマスターがサワラの炙り刺しを作るため調理場に戻る途中で、自分の地ダコの刺身もお願いした。
酒を口に運び、地ダコの刺身を口に入れ、店内を眺め、ただただ、この空間を楽しむのだ。
昔来た時、店内左手奥の高い棚にあったブラウン管テレビが液晶テレビに変わっていた。
床もなんとなく、調理場の棚もなんとなく、全てが傾いでいる。
しかし、これは悪口ではない。
この空間にいると、不思議と落ち着くのである。

お勘定をお願いした。
二四七〇円か。千円札二枚と五百円玉で払い、十円玉を三枚受け取る。
マスターと少し話ができた。
「こちらのお店は何年前に始められたのですか」
「昭和四十三年です」
「そうですか、僕が最初に来たのは二十何年前なんです。」
「それじゃ、うちが養老の滝だった頃ですね。」
「そうですね、きっと」
「お忘れなく、また来てくださってありがとうございます」
外に出る。外はすっかり暗くなっていた。
池上駅の踏み切りとは別に、駅構内の踏み切りも鳴り始める。
自分は池上線沿線にいるのだと改めて感じた。


(了)

池上 居酒屋「滝亭」
住所 東京都大田区池上6-8-9
電話 03-3754-3285
定休日 月曜休
営業時間 17:00~23:00
交通 東急池上線池上駅下車徒歩1分
街の手帖については、コトノハ/街の手帖編集部へ。
「ホッピーを原理主義的に飲む方法」はこちら。
実力派俳優になりたい方はこちらを是非ごらんください→ 守輪咲良のSAKURA ACTING PLACE