居酒屋探偵DAITENの生活 「あえて店名を伏せたまま」第5回どしゃぶりの向こうに立ち吞み放棄の立ち吞み店
Life of the izakaya detective DAITEN
居酒屋探偵DAITENの生活 「あえて店名を伏せたまま」 第5回 【地域別】 【池上線】 【時間順】 【がっかり集】
「あえて店名を伏せたまま」第5回
どしゃぶりの向こうに立ち吞み放棄の立ち吞み店
~ 進化も退化もしない元立呑み店 ~

お店のお名前を伏せているので、今回もまた写真は仙台四郎
居酒屋巡りを続けていると様々なお店に出会う。私はすばらしいと思っても、御常連ではない一般の方が突然に行っても楽しめないかもしない。また、お店の方や御常連の皆さんはネットで紹介されることを望まないのではないかと、容易に想像できる時もある。しかし、そこで起きた出来事は面白く、紹介をしたいという気持ちを抑えられない。そんな心持ちで書くカテゴリー、「あえて店名を伏せたまま」の第5回である。
その店は広い国道に面した場所にあった。JRの駅も近い。
国道の反対側からもよく見えるように、大きく「立ち飲み」と書いてある。
その日は大雨だった。どしゃぶりの中、傘をさして横断歩道を渡る。
短い雨宿りには、立ち飲み店が助かる。
店に背を向け、濡れないように気をつけながら傘をたたむ。
ふり返った。
右手の長いまっすぐのカウンターと左手の短いまっすぐのカウンターがあり、それを斜めのカウンターがつなぐ。
手前から見ればY字形のカウンターである。
カウンターの高さは立ち呑みにちょうど良い高さである。
しかし、椅子がある。
「立ち呑み」と大書してあっても椅子のある店、「元立ち呑店」である。
カウンターの内側に三角地があって、その中にいるマスターは三角の先に行って、その辺りに座る客に、手を伸ばして生ビールを渡した。 入口の六席は向かい合える席。グループはここがよいかもしれない。
右手の長いカウンターの真ん中あたりに座った。向う側に一人、先客がいた。
席料お通し付(五〇円)という紙が貼ってある。五〇円という価格が面白い。
ホッピーセット(三五〇円)がある。
「白、黒、赤」と書いてある。赤はワンウェイ瓶の55ホッピーのことに違いない。赤の値段は四五〇円。
支払いはキャッシュオンである。千円札を一枚だす。
奥のキッチンの中から何かを炒める音がする。少しして赤い麺がのった皿が私の向こう側のカウンター席に座る方に届けられた。
「はい、ナポリタンねぇ」
その方は、新聞を読みながら黙ってナポリタンを食べ始める。振り返って壁のメニューを見ると、ナポリタンをはじめ、食事メニューがしっかりとある。
お酒を飲むと同時に食事をされる方が多いに違いない。
ポテトサラダ(二〇〇円)を頼んだ。
入って右手に大きな冷蔵庫が置いてある。その上に大画面テレビ。私も含め、テレビを見ているので、新しく客が入ってくると、先客から見られることになる。マスターは奥の調理場から出てきて、私の座っているカウンター席の後ろを歩いて、大型冷蔵庫の中から食材を取り出し、再び調理場へと戻る。
色々な食材が書かれたメニューがあって、その調理方法と味付けが横に書いてある。
調理法は、てんぷら、焼き、炒め、味は、塩、しょうゆ、味噌、ピリ辛、こしょう。とある。
好きなように作ってくれるのはとても良い。今日は十七種類ある。値段は一種は一五〇円、二種は二五〇円。二種一度に頼む方がお得ということか。
私も魚肉ソーセージとチンゲン菜の二種を炒めてもらった。二五〇円だ。次回は、ヤングコーンのてんぷらを食べてみようか。
目新しい食べ物があるわけではない、ただ、自分の好きな食材を好きな調理法で安く食べさせてくれる。
常連にとっては助かるシステムだ。
「チューハイお願いします。」
「チューハイは何がいいですか?」
「ええと・・・」
「チューハイは、レモン、ライム、グレープフルーツ、カルピス、ウーロンハイ、お茶ハイ」
「お茶ハイ」
「はい、お茶ハイですね」
お茶ハイ(二五〇円)に決まった。
ワカメとカニカマの酢の物(一〇〇円)も頼む。
お茶ハイを飲みながら店内を見る。適度に汚れ、味わいが出ている。
元はバーか何かだったのかもしれない。洋風なつくりである。
雨もふり、少し寒くなってきた。
雲海お湯割り(三〇〇円)を呑む。
目の前に置いた残金は二五〇円なのであと五〇円が必要だ。財布から五〇円を入れる。
マスターは入口の冷蔵庫へ食材を何度も取りに行く。忙しい。
やがて、犬のケージを持ったお客さんが入ってくる。
ケージから犬が出され、椅子の上に犬を座らせる。
犬が椅子に座っている。人間も椅子に座っている。
ここは、立ち呑みを放棄した立ち呑み店である。
普通、立ち呑み店では、座る店よりも早く時間が流れる。回転率が命だからだ。
でも、お店の方が早い時間の流れを好む場合とそうではない場合がある。
途中でお店の方が疲れてしまったのか。それほど回転率も上がらなかったのか。
新しく来たお客さんが立ち呑み店でよく言う、「椅子を置いたら毎日来るのに」という言葉にのってしまったのか。
ここは外に立ち呑みと書かれた「立ち呑み放棄の立ち呑み店」となった。
座る店から立ち呑みになってもそれは進化でも退化でもない。
ここのお店はずっとこうに違いない。通う方がいる限り。
犬も座っている。私も座っている。だんだんと眠くなってくる。
マスターも隣に座るお客さんもその犬になれているようだ。
犬がいても何も反応しないお客さんもいる。
すべてがゆるく流れてゆく。
外は雨。
遣らずの雨か。
思いのほか長居をしてしまった。
雨も弱くなってきた。
外に出ることにする。
国道を雨を蹴散らせて大型トラックが走りぬけた。
(了)
「ホッピーを原理主義的に飲む方法」はこちら。
演出家守輪咲良の劇集団「咲良舎」と演技私塾「櫻塾」
居酒屋探偵DAITENの生活 「あえて店名を伏せたまま」 第5回 【地域別】 【池上線】 【時間順】 【がっかり集】
「あえて店名を伏せたまま」第5回
どしゃぶりの向こうに立ち吞み放棄の立ち吞み店
~ 進化も退化もしない元立呑み店 ~

お店のお名前を伏せているので、今回もまた写真は仙台四郎
居酒屋巡りを続けていると様々なお店に出会う。私はすばらしいと思っても、御常連ではない一般の方が突然に行っても楽しめないかもしない。また、お店の方や御常連の皆さんはネットで紹介されることを望まないのではないかと、容易に想像できる時もある。しかし、そこで起きた出来事は面白く、紹介をしたいという気持ちを抑えられない。そんな心持ちで書くカテゴリー、「あえて店名を伏せたまま」の第5回である。
その店は広い国道に面した場所にあった。JRの駅も近い。
国道の反対側からもよく見えるように、大きく「立ち飲み」と書いてある。
その日は大雨だった。どしゃぶりの中、傘をさして横断歩道を渡る。
短い雨宿りには、立ち飲み店が助かる。
店に背を向け、濡れないように気をつけながら傘をたたむ。
ふり返った。
右手の長いまっすぐのカウンターと左手の短いまっすぐのカウンターがあり、それを斜めのカウンターがつなぐ。
手前から見ればY字形のカウンターである。
カウンターの高さは立ち呑みにちょうど良い高さである。
しかし、椅子がある。
「立ち呑み」と大書してあっても椅子のある店、「元立ち呑店」である。
カウンターの内側に三角地があって、その中にいるマスターは三角の先に行って、その辺りに座る客に、手を伸ばして生ビールを渡した。 入口の六席は向かい合える席。グループはここがよいかもしれない。
右手の長いカウンターの真ん中あたりに座った。向う側に一人、先客がいた。
席料お通し付(五〇円)という紙が貼ってある。五〇円という価格が面白い。
ホッピーセット(三五〇円)がある。
「白、黒、赤」と書いてある。赤はワンウェイ瓶の55ホッピーのことに違いない。赤の値段は四五〇円。
支払いはキャッシュオンである。千円札を一枚だす。
奥のキッチンの中から何かを炒める音がする。少しして赤い麺がのった皿が私の向こう側のカウンター席に座る方に届けられた。
「はい、ナポリタンねぇ」
その方は、新聞を読みながら黙ってナポリタンを食べ始める。振り返って壁のメニューを見ると、ナポリタンをはじめ、食事メニューがしっかりとある。
お酒を飲むと同時に食事をされる方が多いに違いない。
ポテトサラダ(二〇〇円)を頼んだ。
入って右手に大きな冷蔵庫が置いてある。その上に大画面テレビ。私も含め、テレビを見ているので、新しく客が入ってくると、先客から見られることになる。マスターは奥の調理場から出てきて、私の座っているカウンター席の後ろを歩いて、大型冷蔵庫の中から食材を取り出し、再び調理場へと戻る。
色々な食材が書かれたメニューがあって、その調理方法と味付けが横に書いてある。
調理法は、てんぷら、焼き、炒め、味は、塩、しょうゆ、味噌、ピリ辛、こしょう。とある。
好きなように作ってくれるのはとても良い。今日は十七種類ある。値段は一種は一五〇円、二種は二五〇円。二種一度に頼む方がお得ということか。
私も魚肉ソーセージとチンゲン菜の二種を炒めてもらった。二五〇円だ。次回は、ヤングコーンのてんぷらを食べてみようか。
目新しい食べ物があるわけではない、ただ、自分の好きな食材を好きな調理法で安く食べさせてくれる。
常連にとっては助かるシステムだ。
「チューハイお願いします。」
「チューハイは何がいいですか?」
「ええと・・・」
「チューハイは、レモン、ライム、グレープフルーツ、カルピス、ウーロンハイ、お茶ハイ」
「お茶ハイ」
「はい、お茶ハイですね」
お茶ハイ(二五〇円)に決まった。
ワカメとカニカマの酢の物(一〇〇円)も頼む。
お茶ハイを飲みながら店内を見る。適度に汚れ、味わいが出ている。
元はバーか何かだったのかもしれない。洋風なつくりである。
雨もふり、少し寒くなってきた。
雲海お湯割り(三〇〇円)を呑む。
目の前に置いた残金は二五〇円なのであと五〇円が必要だ。財布から五〇円を入れる。
マスターは入口の冷蔵庫へ食材を何度も取りに行く。忙しい。
やがて、犬のケージを持ったお客さんが入ってくる。
ケージから犬が出され、椅子の上に犬を座らせる。
犬が椅子に座っている。人間も椅子に座っている。
ここは、立ち呑みを放棄した立ち呑み店である。
普通、立ち呑み店では、座る店よりも早く時間が流れる。回転率が命だからだ。
でも、お店の方が早い時間の流れを好む場合とそうではない場合がある。
途中でお店の方が疲れてしまったのか。それほど回転率も上がらなかったのか。
新しく来たお客さんが立ち呑み店でよく言う、「椅子を置いたら毎日来るのに」という言葉にのってしまったのか。
ここは外に立ち呑みと書かれた「立ち呑み放棄の立ち呑み店」となった。
座る店から立ち呑みになってもそれは進化でも退化でもない。
ここのお店はずっとこうに違いない。通う方がいる限り。
犬も座っている。私も座っている。だんだんと眠くなってくる。
マスターも隣に座るお客さんもその犬になれているようだ。
犬がいても何も反応しないお客さんもいる。
すべてがゆるく流れてゆく。
外は雨。
遣らずの雨か。
思いのほか長居をしてしまった。
雨も弱くなってきた。
外に出ることにする。
国道を雨を蹴散らせて大型トラックが走りぬけた。
(了)
「ホッピーを原理主義的に飲む方法」はこちら。
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