居酒屋探偵DAITENの生活「あえて店名を伏せたまま」第6回 ある立ち呑店・店主の本音
Life of the izakaya detective DAITEN
居酒屋探偵DAITENの生活 「あえて店名を伏せたまま」 第6回 【地域別】 【池上線】 【時間順】 【がっかり集】
「あえて店名を伏せたまま」第6回
ある立ち吞み店・店主の本音
~ 進化について ~

お店のお名前を伏せているので、今回もまた写真は仙台四郎
居酒屋巡りを続けていると様々なお店に出会う。私はすばらしいと思っても、御常連ではない一般の方が突然に行っても楽しめないかもしない。また、お店の方や御常連の皆さんはネットで紹介されることを望まないのではないかと、容易に想像できる時もある。しかし、そこで起きた出来事は面白く、紹介をしたいという気持ちを抑えられない。そんな心持ちで書くカテゴリー、「あえて店名を伏せたまま」の第6回である。
そのお店は立ち飲み激戦区の街にあった。
といっても新橋のような次々に店舗が現れては消えてゆく場所でもない。
ある日、その立ち飲み店に行って久しぶりに入ってみることにした。
ずいぶん前、開店してすぐに入った。それから何年がたったろうか、本当に久しぶりである。
あまり商売に慣れていない感じのおとなしいマスターが一人でやっているお店だった。
店内にはお客様はいない。そして、入店してすぐにその大きな変化に驚いた。
椅子があるのだ。
普通の場合は、こんな風に途中から立ち飲み店に椅子が置かれてしまった場合、私はもう入らない。
しかし、今回はその変化の中身を知りたくて入ってみた。
メニューを見る。
「何を選んで良いか、いつも迷うんです」
「迷ったら厚揚げです」とマスター。以前とは違いリアクションが早い。
「厚揚げお願いします」
ここの厚揚げは、買ってきた厚揚げを焼き直したものではない。ちゃんと揚げてくれる厚揚げである。
サワーを飲みながら待つ。
厚揚げがやってくる。独特の胡麻油の効いたタレ。
「そのまま醤油とかかけないで、大丈夫です。」とマスター。
ネギたっぷり。小鍋に入っている。、
「バック・・・下に置いてもらっていいですか?」と、注意される。
座っている椅子の足元のカゴに入れるルールになったようだ。
やがて、御常連らしきお客様が数人入ってこられた。
「あれ、椅子あるんだ」と一人の方がおっしゃっる。
「一週間前からです」とマスター。
立ち飲みから椅子に変わったのは一週間前なのである。
そんな時期に自分は来たのか。
来店された御常連のお客様たちの驚く様子が面白い。
「なんだか落ち着かないなぁ」とお一人。
「落ち着かないのは最初だけ」とマスター。面白い。
六年の間にずいぶんとお話のできるマスターに変わっていた。
すっかり、御常連が通うお店になっていた。
さらに、独り客の方が入店されて、店内を見廻してからすぐに帰ってゆかれた。
「帰っちゃったね・・・」
「そうだね・・・」
常連の方々がそんな風に話している。
「どうして、立ち飲みから変えたんですか・・・」
「開店時よりも5歳6歳、常連が歳をとってゆくんですよ。だから、座りたくなる年齢になる。だから、いつか座り飲みにしたかったんですよ・・・やりたくて立ち飲みをやった訳ではないんですよ。」
「そうなんだ・・・」
「お客さんとみんなでじっくり話しながら・・・一日の終わりを終えられる酒場を目指したかったんですよ」
やがて、常連の方々が次々に入ってこられる。あっという間に満席になった。
「もう違和感ないでしょ?」とマスターが最初の常連の方に話していた。
笑顔である。饒舌である。マスターの進化である。それを称えたい。
立ち吞みをやめてしまい、普通の居酒屋になるお店のなんと多いことか。
「称賛」の気持ちと、ささやかな「傷心」を抱え、お勘定をして、静かに立ち去るのであった。
(了)
「ホッピーを原理主義的に飲む方法」はこちら。
演出家守輪咲良の劇集団「咲良舎」と演技私塾「櫻塾」
街の手帖については、コトノハ/街の手帖編集部へ。
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「あえて店名を伏せたまま」第6回
ある立ち吞み店・店主の本音
~ 進化について ~

お店のお名前を伏せているので、今回もまた写真は仙台四郎
居酒屋巡りを続けていると様々なお店に出会う。私はすばらしいと思っても、御常連ではない一般の方が突然に行っても楽しめないかもしない。また、お店の方や御常連の皆さんはネットで紹介されることを望まないのではないかと、容易に想像できる時もある。しかし、そこで起きた出来事は面白く、紹介をしたいという気持ちを抑えられない。そんな心持ちで書くカテゴリー、「あえて店名を伏せたまま」の第6回である。
そのお店は立ち飲み激戦区の街にあった。
といっても新橋のような次々に店舗が現れては消えてゆく場所でもない。
ある日、その立ち飲み店に行って久しぶりに入ってみることにした。
ずいぶん前、開店してすぐに入った。それから何年がたったろうか、本当に久しぶりである。
あまり商売に慣れていない感じのおとなしいマスターが一人でやっているお店だった。
店内にはお客様はいない。そして、入店してすぐにその大きな変化に驚いた。
椅子があるのだ。
普通の場合は、こんな風に途中から立ち飲み店に椅子が置かれてしまった場合、私はもう入らない。
しかし、今回はその変化の中身を知りたくて入ってみた。
メニューを見る。
「何を選んで良いか、いつも迷うんです」
「迷ったら厚揚げです」とマスター。以前とは違いリアクションが早い。
「厚揚げお願いします」
ここの厚揚げは、買ってきた厚揚げを焼き直したものではない。ちゃんと揚げてくれる厚揚げである。
サワーを飲みながら待つ。
厚揚げがやってくる。独特の胡麻油の効いたタレ。
「そのまま醤油とかかけないで、大丈夫です。」とマスター。
ネギたっぷり。小鍋に入っている。、
「バック・・・下に置いてもらっていいですか?」と、注意される。
座っている椅子の足元のカゴに入れるルールになったようだ。
やがて、御常連らしきお客様が数人入ってこられた。
「あれ、椅子あるんだ」と一人の方がおっしゃっる。
「一週間前からです」とマスター。
立ち飲みから椅子に変わったのは一週間前なのである。
そんな時期に自分は来たのか。
来店された御常連のお客様たちの驚く様子が面白い。
「なんだか落ち着かないなぁ」とお一人。
「落ち着かないのは最初だけ」とマスター。面白い。
六年の間にずいぶんとお話のできるマスターに変わっていた。
すっかり、御常連が通うお店になっていた。
さらに、独り客の方が入店されて、店内を見廻してからすぐに帰ってゆかれた。
「帰っちゃったね・・・」
「そうだね・・・」
常連の方々がそんな風に話している。
「どうして、立ち飲みから変えたんですか・・・」
「開店時よりも5歳6歳、常連が歳をとってゆくんですよ。だから、座りたくなる年齢になる。だから、いつか座り飲みにしたかったんですよ・・・やりたくて立ち飲みをやった訳ではないんですよ。」
「そうなんだ・・・」
「お客さんとみんなでじっくり話しながら・・・一日の終わりを終えられる酒場を目指したかったんですよ」
やがて、常連の方々が次々に入ってこられる。あっという間に満席になった。
「もう違和感ないでしょ?」とマスターが最初の常連の方に話していた。
笑顔である。饒舌である。マスターの進化である。それを称えたい。
立ち吞みをやめてしまい、普通の居酒屋になるお店のなんと多いことか。
「称賛」の気持ちと、ささやかな「傷心」を抱え、お勘定をして、静かに立ち去るのであった。
(了)
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演出家守輪咲良の劇集団「咲良舎」と演技私塾「櫻塾」
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